飯島国際商標特許事務所

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【最高裁判決紹介】商標法47条の除斥期間経過後の無効理由の抗弁(権利濫用論)

2017-03-16

2017年2月28日、最高裁は、商標法4条1項10号を理由とする無効審判請求がないまま設定登録日から5年を経過した後、商標権侵害訴訟の相手方は、同号該当をもって同法39条、特許法104条の3第1項に係る抗弁を主張することが原則として許されないとの判断を示した上で、商標法4条1項10号を理由とする無効審判請求がないまま設定登録日から5年を経過した後でも、商標権侵害訴訟の相手方は、自己の商品等表示として周知である商標との関係での同号該当を理由として権利濫用の抗弁を主張することが許されるとの初の判断を示しました(平成27年(受)第1876号同29年2月28日最高裁判所第三小法廷判決)。詳細は次のとおりです。

 

まず、法上の無効理由の抗弁について、「商標法47条1項は,商標登録が同法4条1項10号の規定に違反してされたときは,不正競争の目的で商標登録を受けた場合を除き,商標権の設定登録の日から5年の除斥期間を経過した後はその商標登録についての無効審判を請求することができない旨定めており,その趣旨は,同号の規定に違反する商標登録は無効とされるべきものであるが,商標登録の無効審判が請求されることなく除斥期間が経過したときは,商標登録がされたことにより生じた既存の継続的な状態を保護するために,商標登録の有効性を争い得ないものとしたことにあると解される(最高裁平成15年(行ヒ)第353号同17年7月11日第二小法廷判決・裁判集民事217号317頁参照)。そして,商標法39条において準用される特許法104条の3第1項の規定(以下「本件規定」という。)によれば,商標権侵害訴訟において,商標登録が無効審判により無効にされるべきものと認められるときは,商標権者は相手方に対しその権利を行使することができないとされているところ,上記のとおり商標権の設定登録の日から5年を経過した後は商標法47条1項の規定により同法4条1項10号該当を理由とする商標登録の無効審判を請求することができないのであるから,この無効審判が請求されないまま上記の期間を経過した後に商標権侵害訴訟の相手方が商標登録の無効理由の存在を主張しても,同訴訟において商標登録が無効審判により無効にされるべきものと認める余地はない。また,上記の期間経過後であっても商標権侵害訴訟において商標法4条1項10号該当を理由として本件規定に係る抗弁を主張し得ることとすると,商標権者は,商標権侵害訴訟を提起しても,相手方からそのような抗弁を主張されることによって自らの権利を行使することができなくなり,商標登録がされたことによる既存の継続的な状態を保護するものとした同法47条1項の上記趣旨が没却されることとなる。そうすると,商標法4条1項10号該当を理由とする商標登録の無効審判が請求されないまま商標権の設定登録の日から5年を経過した後においては,当該商標登録が不正競争の目的で受けたものである場合を除き,商標権侵害訴訟の相手方は,その登録商標が同号に該当することによる商標登録の無効理由の存在をもって,本件規定に係る抗弁を主張することが許されないと解するのが相当である。」との判断を示しました。

 

他方で、「商標法4条1項10号が,商標登録の出願時において他人の業務に係る商品又は役務(以下「商品等」という。)を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標又はこれに類似する商標につき商標登録を受けることができないものとしている(同条3項参照)のは,需要者の間に広く認識されている商標との関係で商品等の出所の混同の防止を図るとともに,当該商標につき自己の業務に係る商品等を表示するものとして認識されている者の利益と商標登録出願人の利益との調整を図るものであると解される。そうすると,登録商標が商標法4条1項10号に該当するものであるにもかかわらず同号の規定に違反して商標登録がされた場合に,当該登録商標と同一又は類似の商標につき自己の業務に係る商品等を表示するものとして当該商標登録の出願時において需要者の間に広く認識されている者に対してまでも,商標権者が当該登録商標に係る商標権の侵害を主張して商標の使用の差止め等を求めることは,特段の事情がない限り,商標法の法目的の一つである客観的に公正な競争秩序の維持を害するものとして,権利の濫用に当たり許されないものというべきである(最高裁昭和60年(オ)第1576号平成2年7月20日第二小法廷判決・民集44巻5号876頁参照)。そこで,商標権侵害訴訟の相手方は,自己の業務に係る商品等を表示するものとして認識されている商標との関係で登録商標が商標法4条1項10号に該当することを理由として,自己に対する商標権の行使が権利の濫用に当たることを抗弁として主張することができるものと解されるところ,かかる抗弁については,商標権の設定登録の日から5年を経過したために本件規定に係る抗弁を主張し得なくなった後においても主張することができるものとしても,同法47条1項の上記(ア)の趣旨を没却するものとはいえない。したがって,商標法4条1項10号該当を理由とする商標登録の無効審判が請求されないまま商標権の設定登録の日から5年を経過した後であっても,当該商標登録が不正競争の目的で受けたものであるか否かにかかわらず,商標権侵害訴訟の相手方は,その登録商標が自己の業務に係る商品等を表示するものとして当該商標登録の出願時において需要者の間に広く認識されている商標又はこれに類似する商標であるために同号に該当することを理由として,自己に対する商標権の行使が権利の濫用に当たることを抗弁として主張することが許されると解するのが相当である。」との判断を示しました。

 

従前、商標法47条に規定する除斥期間経過後の無効理由の抗弁を認めるか否かについては、否定説と肯定説に見解が分かれていました。

否定説は、商標法47条の除斥期間経過により無効理由が消滅したものと解釈し、無効理由の抗弁を認めるべきではないというものです。この見解は、特許法104条の3の「無効審判により無効にされるべきものと認められるとき」の文言、商標法47条の規定など、商標法の立法趣旨や法的安定性を重視するものといえます。

これに対し、肯定説は、商標法47条が商標登録を対世的に無効にすることについての制限規定でであり、当事者間の紛争解決上、除斥期間経過後に商標権者から侵害訴訟を提起された場合に無効の抗弁の主張を認めて然るべきであるというものです。この見解は、当事者間の紛争解決に重きを置いた見解といえます。

上記のように見解が分かれていた中、最高裁は、「権利濫用の抗弁」という理論により、個別的・具体的事案の下で、事実上、当事者間での除斥期間経過後の無効理由の抗弁を認めたものと評価できます。なお、当事者が異なる場合に、当該抗弁の成立が常に認められるわけではないので、注意が必要です。

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