飯島国際商標特許事務所
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【知財高裁判決紹介】一意匠一出願(容器付冷菓事件)

2017-06-20

意願2013-5010号「容器付冷菓」に係る意匠の一意匠一出願の要件(意匠法7条)について,知財高裁平成28年9月21日判決(平成28年(行ケ)10034号)は,概ね次のとおりの判断し,特許庁が不服2014-16810号事件について平成27年11月20日にした審決(意匠法7条の要件を充足しない)を取り消しました(意匠法7条の要件を充足する)。

1 一意匠一出願
「意匠は,『物品』の『形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合』(以下,これらを一括して『形態』という。)である(意匠法2条1項)」から,「意匠法7条にいう『意匠登録出願は・・・物品の区分により意匠ごとにしなければならない』とは,意匠登録出願が『物品ごとに』かつ『形態ごとに』行われるべきことを規定したものと解される。」
「意匠に係る物品には,特定の用途及び機能があることから,『物品ごとに』とは,ある一つの特定の用途及び機能を有する一物品であることを意味するものと解される。」
「『形態ごとに』とは,意匠登録の出願図面に表される形態が,全体的なまとまりを有して単一の一形態であることを意味するものと解される。」
「一つの特定の用途及び機能を有する一物品といえるか,及び,出願図面に表される形態が全体的なまとまりを有して単一の一形態といえるかは,社会通念に照らして判断されるべきものである。」

2 物品の単一性
「意匠登録出願に係る物品が上記別表第一に列挙されている物品の区分には該当しない場合に,当該物品が一物品といえるか否かは,願書における『意匠に係る物品』欄及び『意匠に係る物品の説明』欄の記載を参照した上,①意匠登録出願に係る物品の内容,製造方法,流通形態及び使用形態,②意匠登録出願に係る物品の一部分がその外観を保ったまま他の部分から分離することができるか,並びに③当該部分が通常の状態で独立して取引の対象となるか等の観点を考慮して,当該物品が一つの特定の用途及び機能を有する一物品といえるか否かを,社会通念に照らして判断すべきものである。」
「本願意匠における意匠に係る物品は,『容器付冷菓』・・・であって,上記別表第一に列挙されている物品の区分には該当しない。」
「『容器付冷菓』は,その名称からすれば,『冷菓』が主体であって,『容器』が付随しているものと解される。」
「本願意匠に係る『冷菓』は,容器部内に冷菓部材を充填し,その上部にあん部材,もち部材を順次配設した後,これらを冷やし固めることによって製造するものと認識される。」
「冷菓部材,あん部材及びもち部材からなる『冷菓』は,『容器』と共に流通に付されるものである。」
「使用の場面においても,通常,『容器』に入ったままの『冷菓』をスプーン等ですくって食することが想定される。」
「製造,流通,及び使用の各段階において,『冷菓』は,『容器』に充填され冷やし固められたままの一体的状態であると認められる。」
「本願意匠に係る『冷菓』を,その形態を保ったまま『容器』から分離することは,容易ではないものと推認される。」
「『冷菓』は,製造の段階から,流通,使用に至るまで『容器』から分離されることはないから,『冷菓』が『容器』から独立して通常の状態で取引の対象となるとはいえない。」
「これらを総合考慮すれば,本願意匠に係る物品である『容器付冷菓』は,社会通念上,一つの特定の用途及び機能を有する一物品であると認められ,『冷菓』の部分のみが『容器』の部分とは独立した用途及び機能を有する一物品とはいえない。」

3 形態の単一性
「本願意匠の願書に添付された図面・・・は,形式上,二以上の形態を併記したものではない。」
「実質的にも,容器内に冷菓を入れた状態の図面であって,冷菓と容器とは隙間なく接しており,一塊になった状態のものであるから,二以上の形態を併記したとはいえない。」
「したがって,本願意匠に係る形態は,単一と認められる。」

4 ワンポイイント解説
意匠法第7条は、意匠登録出願は一意匠ごとにしなければならないことについて規定します。
同条は、権利内容の明確化、一意匠一排他的独占権(意匠権)の発生による権利の安定性確保等を考慮したものと解釈されています。
意匠図面上に2以上の物品が記載されている場合に、審査上、それが1つの意匠として扱われるか、2つの意匠と扱われるかにつき、出願時に事前に検討しておくことは、実務的に重要です(拒絶理由通知書が送付された場合に、意見書で争うか、分割制度を利用するかにより、対応コストも変動します)。
意匠法7条の要件を充足するか否かを検討するにあたっては、従前から、2以上の該当部分が機能的一体性又は形態的一体性を有するか否かを中心に検討がなされてきました。
本判決は、意匠法7条の趣旨を確認するとともに、同条の要件を、「物品の単一性」及び「形態の単一性」という観点から、特に物品の単一性につき具体的かつ詳細に検討(物品の内容,製造方法,流通形態及び使用形態、分離可能性、独立取引性を具体的かつ詳細に検討)し、「社会通念に照らして」考えることを明らかにしたものといえ、今後の実務上でも、参考になる考え方といえます。

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