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【知財高裁判決紹介】リツイート事件(著作権等侵害等)

2018-06-14

知財高裁平成30年4月25日判決(平成28年(ネ)第10101号)は,概ね次のとおりの判断をし,東京地裁がした平成27年(ワ)第17928号判決を変更しました。 

 

1 事件の概要及び争点

(1)事件の概要

本件は,インターネットサービス「ツイッター」において,控訴人Xの著作物である写真(本件写真)が,①第三者により無断でアカウントのプロフィール画像として用いられ,その後当該アカウントのタイムライン及びツイート(投稿)にも表示されたこと,②第三者により無断で画像付きツイートの一部として用いられ,当該第三者のアカウントのタイムラインにも表示されたこと,③複数の第三者らにより無断で上記②のツイートのリツイートがされ,当該第三者らのアカウントのタイムラインに表示されたことにより,控訴人の本件写真についての著作権及び著作者人格権が侵害されたと主張して,控訴人Xがツイッタージャパン及び米国ツイッター社に対し,プロバイダ責任制限法4条1項に基づく情報の開示を求めた事案です。

 

 (2)争点

本件訴訟における著作権法上の争点は,①ツイッタージャパンが発信者情報を保有しているか否か,②問題となったアカウントにおける本件写真の表示による控訴人Xの著作権等の侵害が明白か,③本件リツイート行為による著作権等の侵害が明白か,の3点です。

 

 2 裁判所の判断

(1)争点1について

知財高裁は,争点1について,「被控訴人ツイッタージャパンはツイッターを運営する者ではなく,ツイッターの利用についてユーザーと契約を締結する当事者でもないと認められ,本件証拠上,被控訴人ツイッタージャパンが発信者情報を開示する権限を有しているとは認められない。」と判断しました。 控訴人Xは,「被控訴人ツイッタージャパンが,情報の削除等の窓口業務を含む,ツイッターのサポート業務を行っていること,控訴人が被控訴人ツイッタージャパンに対して控訴人撮影の写真について公衆送信の差止め等を求めた別件訴訟において,被控訴人ツイッタージャパンへの訴状送達後に画像が削除されたこと,本件についても,控訴人が被控訴人ツイッタージャパン宛てに本件写真の削除を申し出たところ,現実に削除がされたこと,被控訴人らの役員が共通していること,被控訴人米国ツイッター社は傘下にツイッター東京事務所を有すると表明しており,従業員の採用面接を同事務所で行っていること」や,「控訴人は,グローバル企業である被控訴人米国ツイッター社が日本の事情に精通した被控訴人ツイッタージャパンの判断を無視できるとは考えられないこと,被控訴人ツイッタージャパンが判決などにより法的拘束力のある情報の開示義務を負った場合,被控訴人米国ツイッター社がこれを放置する事態は考えられないこと」を主張しましたが,いずれも退けられました。

 

(2)争点2について

知財高裁は,一部の「画像が改変され,控訴人の氏名が表示されていないということができるから,著作者人格権の侵害があるということができる。」と判断しました。

 

(3)争点3について

知財高裁は,著作権等の侵害に関しては,次の6つの主張がなされました。結論としては,「本件リツイート行為は,その侵害情報の流通によって控訴人の権利を侵害したことが明らかである。そして,この場合の「発信者」は,本件リツイート者らであるということができる。」として,同一性保持権及び氏名表示権の侵害を認定しました。

 

 ①公衆送信権侵害

公衆送信権侵害の成否については,控訴人Xが著作権を有しているのは流通した画像データのみである点から,これのみ「侵害情報」と認定したうえで,「本件リツイート行為によってユーザーのパソコン等の端末に表示される本件写真の画像は,それらのユーザーの求めに応じて,流通情報2(2)のデータが送信されて表示されているといえるから,自動公衆送信…に当たる。」として,侵害を肯定しました。

しかしながら,リツイートをした者との関係では,「著作権侵害行為の主体が誰であるかは,行為の対象,方法,行為への関与の内容,程度等の諸般の事情を総合的に考慮して,規範的に解釈すべきであり,カラオケ法理と呼ばれるものも,その適用の一場面であると解される(最高裁平成23年1月20日判決・民集65巻1号399頁参照)が,本件において,本件リツイート者らを自動公衆送信の主体というべき事情は認め難い。本件リツイート行為によって,本件写真の画像が,より広い範囲にユーザーのパソコン等の端末に表示されることとなるが,我が国の著作権法の解釈として,このような受け手の範囲が拡大することをもって,自動公衆送信の主体は,本件リツイート者らであるということはできない。さらに,…本件リツイート者らを幇助者というべき事情は認められない。」と判断しました。

 

 ②複製権

複製権侵害の成否については,「本件リツイート行為により著作物のデータが複製されているということはできない。」として,侵害を否定しました。

 

 ③公衆伝達権

公衆伝達権侵害の成否については,「ここでいう受信装置がクライアントコンピュータであるとすると,その装置を用いて伝達している主体は,そのコンピュータのユーザーであると解され,本件リツイート者らを伝達主体と評価することはできない。…主体であるクライアントコンピュータのユーザーが公に伝達しているというべき事情も認め難いから,公衆伝達権の侵害行為自体が認められない。このように公衆伝達権の侵害行為自体が認められないから,その幇助が認められる余地もない。」として,侵害を否定しました。

 

 ④同一性保持権

同一性保持権侵害の成否については,「表示される画像は,思想又は感情を創作的に表現したものであって,文芸,学術,美術又は音楽の範囲に属するものとして,著作権法2条1項1号にいう著作物ということができるところ,…表示するに際して,…プログラム等により,位置や大きさなどを指定されたために,…本件リツイート者らによって改変されたもので,同一性保持権が侵害されているということができる。…本件リツイート行為は,本件アカウント2において控訴人に無断で本件写真の画像ファイルを含むツイートが行われたもののリツイート行為であるから,そのような行為に伴う改変が「やむを得ない」改変に当たると認めることはできない。」として,侵害を肯定しました。

 

 ⑤氏名表示権

氏名表示権侵害の成否については,「控訴人の氏名が表示されなくなったものと認められるから,控訴人は,本件リツイート者らによって,本件リツイート行為により,著作物の公衆への提供又は提示に際し,著作者名を表示する権利を侵害されたということができる。」として,侵害を肯定しました。

 

 ⑥名誉声望保持権

名誉声望保持権侵害の成否については,「サンリオのキャラクターやディズニーのキャラクターとともに本件写真が表示されているからといって,そのことから直ちに,「無断利用してもかまわない価値の低い著作物」,「安っぽい著作物」であるかのような誤った印象を与えるということはできず,著作者である控訴人の名誉又は声望を害する方法で著作物を利用したということはできない。」として,侵害を否定しました。

 

3 ワンポイント解説

本件判決は,写真の著作物がインラインリンク(直リンク)で流通させる,いわゆる「リツイート」行為が,公衆送信権を侵害することがあると判断した点が注目されます。 またこの「リツイート」によって表示された著作物である画像は,縦横の大きさが異なり,トリミングされ,控訴人の氏名も表示されていない態様に改変されたとして,同一性保持権及び氏名表示権の侵害になり得るとも判断されました。

この事件は,単純な著作権侵害に対する差止等請求事件ではなく,プロバイダ責任制限法に基づく発信者情報開示請求であり,この開示の是非を判断する前提として,著作権等の侵害の有無を判断しています。

控訴人Xは,問題とされたツイッター上のアカウント保有者の電子メールアドレス,当該アカウントの最新のIPアドレス及びログイン情報の送信日時の開示を求めましたが,この判決では,一部の電子メールアドレスの開示が認められるに留まりました。
本件では,公衆送信権侵害については,いわゆるカラオケ法理によって,リツイート者の侵害行為ではないとされていますが,法的な問題点を意識せずにしたリツイート行為によって,著作者人格権の侵害の認定がなされ,更に個人情報が著作権者である第三者に開示される可能性を示唆する事件ですので,SNSにおいては,著作権等を侵害しないよう細心の注意を払う必要があるといえます。

なお,いわゆるカラオケ法理について,「著作権侵害行為の主体が誰であるかは,行為の対象,方法,行為への関与の内容,程度等の諸般の事情を総合的に考慮して,規範的に解釈すべきであり,カラオケ法理と呼ばれるものも,その適用の一場面であると解される」であるというように知財高裁の立場を明らかにした点も注目されます。

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