飯島国際商標特許事務所
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令和5年商標法改正の概要⑴

2023-07-29

4条1項8号の改正

他人の肖像若しくは他人の氏名(商標の使用をする商品又は役務の分野において需要者の間に広く認識されている氏名に限る。)若しくは名称若しくは著名な雅号、芸名若しくは筆名若しくはこれらの著名な略称を含む商標(その他人の承諾を得ているものを除く。)又は他人の氏名を含む商標であって、政令で定める要件に該当しないもの

 

1 商標法改正がなされた趣旨は
      商標法4条1項8号が改正されました。この改正は、最近の審査では本項の趣旨が人格権の保護にあることを強調し、
   自己の氏名を商標として取得する場合には、同一の氏名を有する者、全員の承諾が必要とされています。そのため、自
   己の氏名を商標権として取得することができませんでした。このように厳格な取扱がなされた場合、自己の氏名をブラ
   ンドとして取得を行う慣行があるファッション業界等からは要件の緩和を求める主張がなされていました。
     そこで、本条の趣旨(人格権の保護)という点を維持しながら、上記のような要請等も加味した商標権の改正がなさ
  れました。
      なお、改正法については今後の審議において審査基準の策定及び論点等は審議されます。

 2 改正の概要
⑴ 氏名については周知性を求める
      氏名について周知性を要件とした今改正では、承諾を要する者は、周知の氏名を有する者のみとなりますので、従来
   のように全員の承諾を有する必要はなくなります。
⑵ 周知性を求めた場合の問題点
     氏名については、周知性を要求することになりますので、周知性がない氏名については無関係な者からの出願(悪意商
  標出願)がなされる虞があります。この場合、3条1項柱書(使用意思)や4条1項7号の適用では全ての出願に対し対応が
 できないことから、「出願人の事情」(改正4条4項参照)を考慮して登録の可否が審査等されるように改正がされました。
⑶ 周知性と出願人側の事情との関係はどうなるか
     では、周知性と出願人側の事情との関係はどうなるのでしょうか。令和 5 年 3 月 10 日産業構造審議会知的財産分科会
  商標制度小委員会報告書(商標を活用したブランド戦略展開に向けた商標制度の見直しについて(以下「同報告という」)https://www.jpo.go.jp/resources/shingikai/sangyokouzou/shousai/shohyo_wg/document/31-shiryou/05.pd

によると
◆ 他人の氏名が周知性を有する場合
      人格的利益の侵害の蓋然性が高いと考えられることから、出願人側の事情のいかんを問わず、出願が拒絶される。
◆ 他人の氏名に一定の周知性がない場合
      他人の氏名が一定の知名度を有しない場合は、出願人側の事情を考慮することで、他人の人格的利益が侵害されるような濫
   用的な出願は拒絶されるものと考えられています。
⑶ 出願人側の事情とは
     では、改正法4条4項で問われる出願人側の事情とはどのようなものが想定されるのでしょうか?「同報告」では、詳細は今
    後の議論によるとされていますがこの場合の出願人側の事情とは、
   ・出願人と商標に含まれる氏名との関連性(出願商標中に含まれる他人の氏名が、出願人の自己氏名、創業者や代表者の氏名、
      既に使用している店名である場合等)。
  ・出願人の目的・意図(他人への嫌がらせの目的の有無、先取りして商標を買い取らせる目的の有無等)が想定されています。
⑷ 氏名以外の場合
      なお、4条1条8号は「氏名」以外も含むが、今改正は氏名に関する限りの改正であって、それ以外は改正の対象とはされてい
    ません。「肖像」は、たまたま同一のものを取得したということはなく、「名称」については氏名との違いからその必要はない
    というのが理由です。

 2 需要者の間に広く認識されている氏名(今後の課題)
       上記のような改正法4条4項により、現在の問題点は解消し得ると考えられますが、今後、以下の点が更に議論がなされると
     思われます。
⑴ 商品又は役務の分野における需要者とは
      改正法4条4項では、指定商品又は指定役務の分野における需要者としているが、この需要者の範囲(指定商品又は役務に直
   接接っする需要者を指すか、ある程度幅を有した需要者を指すか等の点について、ある程度の幅を有して判断することになるか
   とは思われますがその判断の基準などが今後の審議がなされる事項とされています。※1、
    ※1 国際自由学園判決では
    人の名称等の略称が8号にいう「著名な略称」に該当するか否かを判断するについても,常に,問題とされた商標の指定商品
      又は指定役務の需要者のみを基準とすることは相当でなく,その略称が本人を指し示すものとして一般に受け入れられているか
      否かを基準として判断されるべきものということができる。【平成17年7月22日 最高裁判所第二小法廷 判決】
 ⑵ 広く認識(どの程度の周知性か) の範囲
       また、広く認識されている程度はどの程度とするかについても今後の審議過程で明確化されることになります。
    例えば、4条1項10号程度の周知性まで求めるか(4条1項10号は出所混同を防止する観点から、周知の範囲は出所混同が生じる
    か否かの範囲で判断されます。4条1項10号の周知性については、DCC事件(昭和57(行ケ)110 昭和58年6月16日東京高等裁判
    所判 決)では、「全国にわたる主要商圏の同種商品取扱業者の間に相当程度認識されているか、あるいは、狭くとも一県の単位
    にとど まらず、その隣接数県の相当範囲の地域にわたつて、少なくともその同種商品取扱業者の半ばに達する程度の層に認識さ
    れていることを要するものと解すべき」)とされています。
      商標権の発生を覆滅する以上はそれ相当の地域的範囲での周知性を要することになります。
       これに対し、趣旨を同じくすることから、4条1項8号の著名な略称と同様の範囲であると解する立場もあります。なお8号の
   著名性については学説上も様々な見解があるところで、今後の審議過程で色々と明らかにされていくものと思われます。

 

                                                                コンセント制度の新設

1 コンセント制度の問題点
       コンセント制度とは、他人の先行商標権が、登録を受けることができないとされた商標登録出願であっても先行者の承諾があれ
    ば登録を認めるという制度です。
       コンセント制度には、先行者の承諾があるだけで登録を認める完全コンセントと、承諾後に特許庁が出所混同の有無を考慮して
    登録の可否を判断する留保型コンセントがあります。今回の改正で我が国は留保型コンセント制度を採択しました。

【新設:4条1項4号】

4 第一項第十一号に該当する商標であつても、その商標登録出願人が、商標登録を受けることについて同号の他人の承諾を得て
    おり、かつ、当該商標の使用をする商品又は役務と同号の他人の登録商標に係る商標権者、専用使用権者又は通常使用権者の
    業務に係る商品又は役務との間で混同を生ずるおそれがないものについては、同号の規定は、適用しない。
 

◆8条1項、2項等も同様に改正がなされました

2 完全コンセント制度(同意があれば足りるとしなかった理由)
      今回の改正で、先行者の同意があれば足りるとしなかったのは、商標法は商標権者の利益を保護するだけではまく、需要者
    の利益をも保護するものである(商標1条)ことから、同意書の提出のみでは足りず、その後審査官が出所混同が生じ得るか
    否かの判断 行うものとしています。

 3 出所混同が生じてしまった場合
       なお、上記の場合でも登録後に出所混同が生じた場合の措置としては、混同防止表示を請求する、又は不正使用取消審判に
     より制裁として当該商標権を取消すことにすることとし、登録後に生じ得る出所混同を担保する制度を新たに新設しています。
      同様の制度は類似関係の分離移転等を禁じた連合商標制度が廃止されたことから、事後的な出所混同が生じた場合の措置とし
      て今 回の規定と同様な規定(混同防止表示請求(24条の4)、制裁である不正使用取消審判(52条の2)がありますが、当
      該制度は登録 時に類似であることを前提とした制度であり、登録時点で類似関係がなく、その後に出所混同が生じた場合には
      適用をすることができません。
        そのため、今改正では24条の4に各号を設け、52条の2ではそれに沿った内容にするよう改正がされました。

4 コンセント制度の今後の審議
     ただ、承諾時点、混同の有無の判断時、将来的に混同が生じる期間、混同の内容(狭義の混同のみならず広義の混同をも含む
    か否)等については今後の審議事項とされています。
     今後問題となり得る事項については次回掲載致します。

 

 

 

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