令和5年不正競争防止法の改正⑴
2023-06-10
【令和5年特許法等の改正の概要⑴】
令和5年6月7日に「不正競争防止法等の一部を改正する法律案」が可決・成立しました。
これにより、不正競争防止法を含め、商標等の産業財産権の改正も併せて改正がなされま
したので、その概要について何回に分けて御説明致します。今回は不正競争防止法の改正
における仮想空間内での模倣行為に対する行為に対しても、不正競争防止法上で差止等が
できるようになった点についてです。
不正競争防止法の改正⑴
⑴ メタバース内での模倣行為を防止できるようになります(不正競争防止法2条1項3号)
① 対応方法
不正競争防止法2条1項3号に中に、「電気通信回線を通じて提供する行為」を追加
しました。
② 規定内容
【改正条文】
この法律において「不正競争」とは、次に掲げるものをいう。
三 他人の商品の形態(当該商品の機能を確保するために不可欠な形態を除く)を模
倣した商品を譲渡し、貸し渡し、譲渡若しくは貸し渡しのために展示し、輸出し、
輸入し、又は電気通信回線を通じて提供する行為(不2条1項3号)
③ 改正の趣旨
態模倣商品の提供行為(同項第 3 号)については、対象が「商品の形態」と規定され、
従来から有体物の商品に限定した規定と解されていたことから、ネットワーク上の「譲渡」
、「引き渡し」行為は想定できないとして、改正が見送られてきた。
しかし、昨今のフィジカル/デジタルを交錯するような模倣事例が現れたことから、ネット
ワーク上の形態模倣商品提供行為も適用対象であることを明確化することから、周知商品混
同惹起行為‘(2条1項1号)、著名表示冒用行為(2条1項2号)と同様に、「電気通信回線を
通じて提供する行為」を追加し、そのような模倣行為に対しても差止(不正競争防止法3条)
、損害賠償(不正競争防止法4条)ができるようになりました。
④ 問題点
なお、審議会答申の最終案を見ると、この改正に際しては、以下のような点が議論された
が、法改正ではなく、運用や解釈の明確化によって対応できるとされ、法の改正には至りま
せんでした。
◆ 商品形態の「商品」の中には無体物が含まれるか
商品については、定義規定は設けていません。仮に商品の中に「無体物が含まれない」
とした場合には、仮想空間内の模倣行為に対し、差止等を行うことはできません。
商品に「無体物」が含まれるか否かについては見解が分かれています。
このため、不正競争防止法の定義中(不正競争防止法2条2項以下)に商品の定義を設け
ることも考えられましたが、商標等の他法でも、「商品」について定義規定を設けてい
る法制がありません。
また、今後の展開も踏まえて商品概念を見る必要性もあることから、逐条解説の中に、
商品には「無体物」が含まれることを明記するにとどめることとしました。
◆ 商品形態模倣行為の保護期間の伸長について
商品形態模倣行為に対する保護期間は、国内販売の日から3年間とされています(不正
競争防止法19条第 1 項第 5 号イ)。
この期間については、ファッション業界を初め保護の伸長を求める主張がなされていま
した。
そのため、今回の改正において保護期間の伸長を期すか否かが議論されました。この点
については販売の日から3年の保護期間の起算日である「販売の日から」については、投
資回収の期間を確保するという趣旨に鑑みれば、市場での投資回収活動が外見的に明らか
になる時点を捉えて、商品の形態の模倣を禁止する期間の起算点とすることが適切である
とされている(不正競争防止法逐条解説令和元年版235頁)。
このように解した場合には、公表から実販売の日までの期間が1年程度かかる場合があ
ることから、投資開発の機会が十分に担保出来ないということがあります。
この点に関しては、条文改正ではなく、不正競争防止法逐条解説に解説部分を「実際の
販売開始時」から3年と明記し、保護の伸長をはかるとともに、今後の動向を踏まえて更
なる議論を踏むこととされました。
この点は、解釈により保護期間が伸長されることになりますので、注意をすることが必
要です。