令和5年商標法改正の概要⑵ コンセント制度の問題点
2023-08-30
コンセント制度の問題点
1 コンセント制度
令和5年の改正により、コンセント制度が導入されますが、今回のコンセント制度は、商標権者が
同意を与えた後、特許庁審査官が混同の虞がないとする場合には登録を認めるという留保が型コンセ
ント制度を導入しました。
以下、その旨の規定を記載した条文となるのですが、その内容については以下のような問題点が存し
ます。なお、下記に記載しました論点の方向性は、2023年8月末に時点での審議会等での見解からの
ものですので、今後の審議や議論により変更が生じ得るかもしれません。
2 新設4条4項の内容
4 第一項第十一号に該当する商標であつても、その商標登録出願人が、商標登録を受けることについて同号の他人の承諾を得ており、かつ、当該商標の使用をする商品又は役務と同号の他人の登録商標に係る商標権者、専用使用権者又は通常使用権者の業務に係る商品又は役務との間で混同を生ずるおそれがないものについては、同号の規定は、適用しない。 |
3 新設4条4項の問題点
⑴ 他人の承諾の問題点
① 承諾の時期
他人の承諾の時期は、商標法中には規定がされていませんが、他人の承諾は4条4項に該当するた
めの要件ですので、行政処分の原則の通り、査定時に必要であるとすることが提唱されています。
② 他人の承諾は、引例たる先願先登録の商標権者の承諾のみで足りるか
承諾権者は、他人とのみ規定がなされ、その主体が、引例たる商標権者と限定がなされていません。
また、4条4項後半では、商標権者のみならず、使用権者の業務との混同も生じない場合に登録を認め
るとし ていることから、他人には使用権者も含まれ、これらの者の承諾も必要になるようにも考えら
れることから問題となります。
➂ 庁の見解(2023年第31回審議会)
これに対し、特許庁の見解としては商標権権の承諾のみを今の段階では求めているようです。ただし、
商標権者の承諾の際に、承諾書に使用権者の承諾等の旨を求めることが考えられるとされています。
なおこの点については、他の委員からも、他人に使用権者も含めると、登録をしていない通常使用権者
等も存することになり、これらの承諾を求めると非常に大変となることから、商標権者の承諾のみを求
めるものという主張がなされています。
➃ 承諾の内容
その際の承諾に内容としては、⒜使用権者も承諾を認めているという事実だけなのか、⒝使用権者と
の関係でも混同が生じないと商標権者が承諾を行った承諾なのか議論が分かれるところですが、この点は
今後更に審議がなされるとのことです。
⑵ 実際の使用がなされていないにもかかわらず、混同が生じ得るとみなして4条4項の適用を認めない(混
同が生じる可能性があり登録を認めないとする商標)とする商標とはどのようなものを指すのか?
① 混同との関係
実際の使用をしていない商用でも、混同が生じるおそれがあるとみなされる場合があるのか。
② 引例の先願先登録商標権者が同意を与えた場合でも、同一商標で、指定商品等が同一の場合には、仮に
承諾があったとしても、混同のそれがある商標として4条4項の適用は認めれられないと考えられるとして
います。
なおこの点には、そのように解した場合には、コンセント制度を設けた趣旨が没却されることことにな
りことから、混同のおそれの高い商標として、個別の立証によるべきとの反対見解もあります。
③ 商標同一の場合とは
ここで商標同一の場合や、指定商品等の同一を厳格に見ていくべきか否かについては議論があります。
適用を厳しくしてしまった場合には、新設したコンセントによって救済ができる場合が非常に限定的になっ
てし まう可能性があるからです。
⑶ 混同が生ずるおそれがないと判断する時点
混同が生ずるおそれがないとする判断時点は何時なのでしょうか。行政処分の原則からすると査定時と
いうことになりますが、査定後登録になるまでの間に混同が生ずるおそれが生じてしまうことになると、
混同が生じ得る商標権が併存して存することになってしまいます。
この点は問題がありますので、判断時は「査定時及ぶ登録時」をもって判 すべきと提言されています。
⑷ 将来の混同のおそれも含むか
なお、この混同のおそれは、①現在の混同のおそれと、②将来の混同のおそれがあります。
この場合の将来の混同のおそれは、何年先までのことを想定しているかは今後の議論の進展によるもの
とされています。また、当事者は、「将来にわたって混同を生ずるおそれがないこと」を主張・立証する
ために、「将来」につ いて、どのような内容を記載した書面を提出する必要があるのか等も今後の課題と
されています。
⑸ 混同とは広義の混同までも含めるのか。
次に、混同には主体を取り違える狭義の混同の他に、当該主体ではないが、その主体と関連性があるもの
と誤認する広義の混同もあります。4条4項の混同も需要者保護の点から広義の混同迄含めるというのが庁
の見解です。
◆ 需要者保護の観点から、混同とは広義の混同迄も含まれる
⑹ 混同の判断方法
混同の判断に際しては、4条1項15号と同様、具体的な事情を総合勘案 して、混同を生ずるおそれがない
かどうかを判断すべきではないかとされています。
⑺ 4条4項と4条1項15号との関係
4条4項を検討した結果、混同が生ずると判断された場合には、いきなり4条1項11号に該当して拒絶とさ
れないで、 何らかの通知が来るのか。あるいは、そのような通知が来た場合に、出願人側は出所混同が生
じない旨の主張を行った場合、4条1項15号は見ないということなのかという点は今後の課題とされていま
す。
コンセント制度実務では、証明書面としてどのような書面が更に必要になるか等、多くの問題点があり
ま す。
今後の産業構造審議会での審議で更にその点は議論されると思いますので、暫時お知らせ致します。