飯島国際商標特許事務所

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中国意匠法の概要

2024-01-09

中国意匠法(第4次専利法改正後)
中国でも意匠は保護対象となります。その際は、専利法(日本の特許法に相当するもの)によって保護されます。専利法は8年単位で改正がなされてきましたが、第4次改正には12年間を要し慎重な改正がなされています。
ただし、日本の意匠制度と何点か異なる場合がありますので、ご説明を致します。

1 意匠審は無審査主義
⑴ 初歩的審査
中国の意匠は、初歩審査(日本の方式要件の審査)を経た後、直ちに登録されその旨が公告されます。意匠権は公告付与の決定から生じます(専利法40条)。
⑵ 日本の実用新案の基礎的要件の審査に近い自己も初歩的審査の対象です
なお、初歩的審査では日本の実用新案のように、基礎的要件の審査がなされます。その内容は「明らかな不当登録事由(例えば、明らかに新規性に違反するか否かについて)該当するか否かの審査がなされます。明らかに違反しているか否かですので、実体審査のような詳細な審査ではありません(通常は機械検索による場合は不要とされています)(審査指南参照))。
なお、2024年改正専利法実施細則では、明らかな新規性だけでなく、明らかな進歩性(創作容易性)の審査も行うように規定されています(専利法実施細則第 50 条第 1項)

⑶ 初歩的審査に瑕疵がある場合
補正ができるような場合には補正命令を行い、応答させます。補正ができない場合には専利意見通知書が通知されます。更に応答しても拒絶理由が解消しない場合には拒絶査定がなされます(専利法38条)。不服の場合は通知受領日から3カ月以内に、国務院専利行政部門に不服審判を請求することができます(専利法41条)。

2 意匠権の存続期間
存続期間は、出願から起算して15年間存します。2021年の第4次改正により、ヘーグ加入を考慮して、出願日から10年から出願日から15年に変更されました(専利法42条)。

3 意匠出願に際して留意すべきこと
⑴ 意匠の簡単な説明
中国の意匠出願では、「意匠の簡単な説明」という書面を提出する必要があります。
意匠の簡単な説明の記載は、意匠製品の名称、用途、意匠の設計要素を示したものであり、我が国の特徴記載書に相当するものです。
ただ、日本の特徴記載書は任意書面で、意匠権の効力の範囲を画する際に影響を与えない書面であるのに対し、中国の「意匠の簡単な説明」は、意匠権の効力を画する書面となる点には留意が必要です。

⑵ 新規性喪失の例外
中国意匠法では、「新規性喪失の例外規定」が限定的な場合にみしか利用ができません。以下の場合、その適用を受けることができます。
①国が緊急事態又は非常事態の情況下にあり、公共の利益のために初めて公開された場合。
➁中国政府が主催する又は認める国際展示会で初めて展示された場合。
➂規定の学術会議、あるいは技術会議上で初めて発表された場合。
➃他者が出願人の同意を得ずに、その内容を漏洩した場合。
また、公知日から6月以内に出願をしないとその適用を受けることができません(専利法24条)。

◆なお2024年1月20日から施行される改正専利法実施規則第 33 条第 2項により、学術会議または技術会議とは、国務院の関連主管部門または全国学術団体が主催する学術会議または技術会議に、国務院の関連主管部門が承認した国際機関が開催する学術会議または技術会議が規定され、新規性喪失の例外規定の適用が多少緩和されます。

⑶ 意匠法における国内優先権
第4次改正の際に、意匠にも国内優先権制度が導入されました。これは、外国人は自国の実用新案等を基礎として、中国に意匠出願をすることができる一方で、中国人は実質上その利用を想定されず、実質上不均衡になることから採用されました。類似意匠で新たな意匠を追加等する場合に適用されるものと考えられています。
なお、国内優先権の先の出願は、意匠である必要はなく、特許や実用新案に基づいても可能です。この場合、先の出願が意匠の場合は、先の出願は取り下げとものとみなされますが、特許や実用新案の場合はそのような取り扱いはなされません。ダブルパテントの問題が生じないからです。

4 特殊な制度
⑴ 類似意匠制度
中国の意匠は一意匠一物品で出願することが原則です(専利法31条)。しかし、一定要件を満たせば複数意匠を一出願することができます。これが類似意匠と、組物(セット意匠)の意匠出願です。
ここで「類似意匠出願」を行うためには以下の要件が必要です。
① 同一物品であること。
② 1つが本意匠として指定されること。
③ 他の意匠が本意匠と類似すること。
④ 類似意匠が10件を超えてはならないこと。(審査指南9.1、9.1.2)
なお、この場合、各意匠はそれぞれ登録要件を具備している必要があり、それを具備しない場合には、削除しないと登録を受けることができません。 
また登録になった場合には、それぞれの意匠に独自の効力が認められます。その点では、我が国の関連意匠と似た制度ということができます(なお平成10年改正前までの我が国に存した類似意匠とは、その意味では異なる性質を有するものとになります)。
これにより、審査官から審査意見通知書を送付されることもなく、登録されるとともに、料金を低廉に抑えることができるというメリットがあります。

⑵ 組物の意匠出願
一意匠一出願の例外としては組物の意匠出願もあります。これが一出願として認められるためには、以下の3要件が必要です。
① 2つ以上の意匠に係る物品が同一の国際意匠分類に属すること。
② 各意匠に係る物品の創作思想が同一であること。
③ 通常、セットとして販売又は使用されること。
上記の3要件を満たせば、物品数等も問われることはありません。また、各意匠毎に登録要件を備える必要があります。この点では、組物全体として登録要件をみたせばいい、我が国の組物意匠制度とは異なります。また、各構成物品毎に意匠権の権利行使が中国の意匠法ではできる点では日本の組物の意匠制度とは異なります。

⑶ 部分意匠制度
2021年施行の第4次改正において部分意匠制度が導入されました。なお、部分意匠出願の際の特定方法が、2024年1月20日施行の改正専利法実施細則(30条、31条)で規定されました。記載の仕方は、以下の通りです。
① 全体製品の図面を提出しなければならず、また破線と実線の組み合わせ、またはその他の手段で、保護を求める内容を示さなければならない。
② 部分意匠を出願する場合、保護を求める部分を概要説明に記載しなければならないが、既に製品全体の図面で破線と実線の組み合わせにより明記されている場合は除きます。

⑷ 秘密意匠
中国には日本の秘密意匠の相当する規定はありません。ただ、それに代わる制度として延期審査制度があります。
この延期審査制度とは、2021年から施行されたもので、審査期間を出願人が意匠出願の同時に延期審査請求を提出することで、1 年、2 年又は 3 年に延期審査を受けることができるという制度です。

⑸ 専利権評価報告
中国の意匠は日本の実用新案同様に、原則、無審査で登録がなされます。このため、国務院専利行政部門が関連の実用新案又は意匠について検索、分析、評価を行ったうえ作成した専利権評価報告書を提出するよう要求することができるとされています(専利法66条)。
またこの評価は、専利権侵害紛争を審理し、処理するための証拠であり、権利の有効性を判断するものではありません。
なお、この評価書の請求は2024年1月24日施行の改正専利法実施細則によると、「何人」も請求ができるのではなく、「専利権者、利害関係者、及び侵害と訴えられた者はCNIPAに実用新案又は意匠権評価報告書の発行を請求することができる。出願人は専利権登録手続きを行う際、国務院専利行政部門に専利権評価報告書の発行を請求することができる。」と請求主体が限定されています。(改正審理法実施細則第 62 条第 1項)。

 

 

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