コンセント制度について
2024-07-06
【商標法コンセント制度の導入と問題点】
1 初めに
商標法では、他人の登録商標(以下「先行登録商標」といいます。)又はこれに類似する商標であって、当該商標に係る指定商品若しくは指定役務又はこれらに類似するものについて商標登録出願をした場合には、商標登録を受けることができない旨が規定されています(商標法第4条第1項第11号)。
2 従来の対応(アサインバック)
この場合、諸外国では先行者から承諾を得れば、拒絶理由を拒絶理由を解消するコンセント制度を導入してきましが、我が国は同意を得たのみで同一・類似に商標の併存を認めると出所混同を招くことから、コンセント制度は導入は見送られてきました。
実務上アサインバックによる対応を行ってきました。
ここでアサインバックとは、特許庁から拒絶理由通知書が届くと、対象の商標出願を先行商標権者に譲渡することで、拒絶理由を解消させ、その後その対象商標を出願人に譲渡してもらうという手法です。
この手法は、実務的になされてきた手法であって、商標法に規定されているものではありません。
3 コンセント制度導入の経緯
なお、多くの諸外国では、日本と異なり、コンセント(同意書)制度が存在します。
主に大企業の場合、商標登録の並存に同意する旨、グローバルな契約を結ぶことがあります。
そのようなケースでは、日本での手続きが、外国と異なり、外国企業等から不満が出ていました。
さらに、中小・スタートアップ企業等による知的財産を活用した新規事業展開を後押しするためには、新規事業でのブランド選択の幅を広げる必要があります。
また従来のアサインバックは法に規定されていない、例外的な手法であり、商標権を併存登録させた後に譲渡をしてくれるか不安があるとともに、譲渡交渉や譲渡費用等の面での負担がそれなりにあることから、簡易なコンセント制度の導入が待たれていました。
なお、コンセントには同意書の提出のみで足りる完全型コンセント(本年度5月から施行が開始された韓国のコンセントはこのタイプになります)と、同意書を提出した後、特許庁が出所混同の有無等の審査を行い、併存登録を認める留保型コンセントに分かれます。
今改正のコンセント導入においては、我が国は留保型コンセントを採択しました。
4 コンセントの際の留意点
⑴ コンセントの対象となる指定商品等
コンセントとの対象となる指定商品等は、その後、出所混同の有無を判断することになりますので、第4条第1項第11号の判断において互いに同一又は類似の関係とされた、両商標に係る指定商品又は指定役務のうち、出願人が出願商標を現に使用し、又は使用する予定の商品又は役務及び同号の他人の登録商標に係る商標権者、専用使用権者又は通常使用権者が登録商標を現に使用し、又は使用する予定の商品又は役務が対象になります。
⑵ なお同意書提出後に出所混同の恐れを判断することから、引例は使用された商標ではないかという疑問も生じますが、先願が未使用の場合も対象となります。この場、混同のおそれは、両商標の使用する商品又は役務同士の混同のおそれを判断するため、商標を現実に使用していない場合、現時点で使用していないこと及び将来における使用の有無が、混同のおそれを判断する際の一要素として考慮されます。
⑶ また同一商標・同一指定商品又は役務の場合も、韓国商標法のようにコンセントにより併存登録ができない旨の規定がありませんので、登録ができない旨の規定がありません。
他方、併存登録になった事後処理である、混同防止表示請求(24条の4)、不正使用取消審判(52条の2)には同一商標の場合の対応について規定がないことから、併存登録を認めない趣旨とも考えられます。
庁の見解では、同一の商標については混同のおそれが高いものと判断され、併存登録は認めない方向になりそうです。
⑷承諾は行政処分の原則通り、査定時に必要になります。
混同の恐れは将来にわたって生じる可能性があり、将来の混同の恐れについても判断がなされます。
なお、そこでの混同は、その商品等の需要者が商品等の出所について混同するおそれのみならず、その他人の登録商標に係る商標権者、専用使用権者又は通常使用権者と経済的又は組織的に何等かの関係がある者の業務に係る商品等であると誤認し、その商品等の需要者が商品等の出所について混同するおそれをもいうとされ、いわゆる広義の混同まで含まれます。
⑸ 同意書の形式や、混同の有無などの判断要素は特許庁の審査基準に詳しく記載がありますので、参照ください。
【特許庁ホーム頁】
https://www.jpo.go.jp/system/laws/rule/guideline/trademark/binran-kaitei/document/2024-03_oshirase_syouhyoubin_kaitei/42.400.02.pdf
5 併存登録後の留意点
⑴ 混同防止表示請求を受けるおそれ
コンセントにより併存登録された場合でも、その使用により他の登録商標の「業務上の利益を害する恐れがある場合」には、他の登録商標の商標権者・専用使用権者から、商標の付記的部分に対し何らかの識別ができる表記を付すように混同防止表示に請求が為される可能性があります。
⑵ さらに、不正競争の目的で登録録商標を使用し、出所混同を生じた場合には52条の2の取消審判の対象にもなってしまいます。
この審判は制裁としての性質を有し、不正使用をした指定商品又は役務のみではなく、商標権全体が取消おなりますので、使用に際しては十分な注意が必要です。
6 今後
従来のアサインバックよりも、簡便な制度としてコンセント制度が採択されたが、同意書のみの完全コンセントではなく、その後で出所混同の有無まで判断する制度です。趣旨からすれば、より迅速・簡易なものとなるはずですが、その点まで踏まえた場合実際はどうなのか、今後の審査の動向が注視されます。