意匠に関するリヤド条約の概要について
2025-07-13
≪リヤド条約≫
意匠に関するリヤド条約が2024年11月22日の採択されました。以下はその主な規定の概要となります。
【目的】
各国において意匠権を円滑に取得できるように、手続負担を軽減するべく各国に求められる手続を調和、あるいは簡素化させることを目的とするもので、サウジアラビア・リヤド市で2024年11月22日に採択されました。
同種の条約については、特許法条約、それから商標法に関するシンガポール条約がそれぞれ存在しますが、意匠ては、同種の条約がない状況でした。
意匠に関する条約がWIPOで成立するのは、国際出願・登録制度を定めた条約であるハーグ協定ジュネーブ改正協定(1999年)以来、25年ぶりとなります。
リヤド意匠法条約の主な規定は以下の通りとなります。
【内容】
1:出願及び申請時に官庁が課すことができる要件
意匠出願、更新、名義変更又は実施権の記録の申請書類において、締約国が要求することができる要件や記載事項を列挙・明記し、更なる要件を締約国が課すことを禁止する旨を定めています。
2:グレースピリオド(新規性喪失等の例外)
出願前に公開された意匠は、原則として、新規性等を喪失したものとみなされ保護がされませんが、グレースピリオドの期間(出願日(優先権主張を伴う場合は優先日)に先立つ12か月の期間)に意匠が公開されたとしても、その意匠の新規性等が喪失しないものとして取り扱う旨を定めています。諸外国は、グレースピリオド期間を6月又は12月とする国が多く、統一的に12月とすべきとの我国の主張が通り、一律12月となりました。
我が国意匠法はグレースピリオドは12月としていますが、優先日から起算ではなく、出願日からとされています。
なお、締約国は、条約への加盟時に、当該規定の適用を留保することが可能です。
3:出願・登録意匠の非公表の維持(秘密意匠制度)
我国の秘密意匠に近い性質のものです。
出願・登録意匠を出願日から起算して最低6か月、非公表のまま維持することを可能にすることを締約国の義務として定めるものです。条約への導入に反対する国もありましたが、我が国の提案が採用された形となりました。日本は、意匠の非公表を維持可能とする期間ができるだけ長くなるよう起算日を優先日ではなく出願日とすべきとも主張し、その旨の合意もなされました。ただし、締約国は、条約への加盟時に、当該規定の適用を留保が可能です。
4:手続救済措置
救済規定は本条約の根幹ともなるもので、これを義務化することを要求していた先進国と、任意規定とすべき途上国の対立があり、義務化という方針で合意がなされました。
(1) 官庁が指定する手続期間の延長
締約国は、官庁が指定する期間を、条約・規則で定める要件が満たされることを条件として、少なくとも1か月延長する義務を負います。なお、延長申請書の官庁への提出のタイミングを、①期間徒過前とするか又は②期間徒過後にするかは締約国は選択可能です。
(2) 意匠出願又は登録に関する権利回復
締約国は、期間徒過後の期間の救済措置を提供しない場合であって、期間不遵守の直接の結果として権利喪失を引き起こしたときは、一定の基準(相当な注意基準又は故意でない基準)及び条約・規則で定める要件が満たされることを条件として、意匠出願又は登録に関する出願人又は名義人の権利を回復する義務を負うことになります。
(3) 優先権主張の訂正・追加
締約国は、条約・規則で定める要件が満たされることを条件として、優先権主張の訂正又は追加を認める義務を負います。我国にはこのような国内法の整備がなされていません。
(4) 優先権回復
締約国は、優先期間を過ぎた後であっても、一定の基準(相当な注意基準又は故意でない基準)及び条約・規則で定める要件が満たされることを条件として、優先権を回復する義務を負います。ただし、締約国は、条約への加盟時に、当該規定の適用を留保することを宣言することもできます。我国の意匠法では、出願日認定要件の規定及び要件を満たさない場合の措置に関する規定は整備されていません。
3.その他
⒈ 出願日の認定要件(6条)
出願日の認定要件が記載され、違反した場合には補完ができる旨規定されました。我国には、出願日認定要件の規定及び要件を満たさない場合の措置に関する規定はありません。
2.代理人の選任の特例(5条)
出願日を確保するための手続や、単なる料金の支払については、在外者であっても代理人を介さずに官庁に対する手続を行うことが可能となります。なおこの手の規定は我国にはありません。