リヤド意匠法条約の内容と日本加盟へ向けて
2026-03-15
⒈ はじめに
2024年11月、サウジアラビアのリヤドで開催された外交会議において、新たな国際ルールとなる「リヤド意匠法条約(RDLT)」が採択されました。
20年におよぶ長期の交渉期間を経て成立した本条約は、知的財産の世界において、特許(PLT)、商標(STLT)に続く「パズルの最後のピース」がついにはまったことを意味します。
これにより、産業財産権の主要分野すべてにおいて、手続の調和と簡素化を推進するための国際的な基盤が出揃いました。
2026年3月13日には、アルバニアが世界に先駆けて批准書を寄託し、記念すべき「最初の加盟国」となりました。
本条約は、15の国または政府間機関による批准・加入から3か月後に発効します。
今後、日本も国内法の整備を経て本条約に加盟することになります。本稿では、条約の主要規定、国際交渉における日本の貢献、および加盟に際して必要となる国内法の改正点について解説します。
⒉ 主な規定の内容
⑴ 出願日認定要件の共通化(第4条、第6条など)
意匠の権利化において「出願日」の確定は極めて重要です。
本条約は世界共通の認定基準を設けることで、出願人が不当に権利を逃すリスクを解消しました。以下の4点が揃っていれば、原則として出願日が認定されます。
≪要件≫
・登録の意思表示(意匠登録を求める旨)
・出願人の特定(氏名・名称など)
・意匠の鮮明な表現(図面・写真など)
・連絡先の表示(通知先)
⑵ グレースピリオド(新規性喪失の例外)の統一(第7条)
救済を受けられる期間を「優先日(または出願日)から12か月間」と規定しました。
これまで国によって「6か月」や「12か月」とバラバラだった基準が、出願人に最も有利な12か月に統一されます。
⑶ 意匠の非公表(秘密意匠制度)(第10条)
製品の発売時期に合わせてデザインを秘匿したいニーズに応える規定です。
期間 : 出願日から最低6か月間。
日本提案の採択 : 当初は「優先日から6か月」という案もありましたが、日本が粘り強く交渉し、第2国への出願時にも十分な期間が残るよ「出願日から起算」とする内容を勝ち取りました。
⑷ 手続救済措置の義務化(第14条〜第16条)
意図せぬミスによる失権を防ぐため、以下の措置が締約国に義務付けられました。⑸ 期間の延長(第14条) : 官庁が指定した手続期間について、少なくとも1か月の延長措置を導入。
⑸権利の回復(第15条)
期限を過ぎて失効した場合でも、「相当な注意を払っていた」あるいは「故意ではない」と認められれば権利を回復できます。
⑹ 優先権主張の訂正・追加(第16条)
優先権主張の付け忘れや誤記を、後から修正することが可能になります。
⒊ 外交会議での対立と妥協点(南北問題と審査主義)
意匠制度には、日本や米国のように厳格な審査を行う「審査登録主義」と、EUや中国のように実体審査を行わない「無審査主義」が存在します。この設計の違いが交渉を複雑化させました。先進国が重視した項目を原則として義務規定(shall)とする一方、制度基盤が整っていない途上国等への配慮として、第31条(留保規定)が設けられました。
これにより、以下の5項目については、当面の間適用を留保することが認められています。
≪留保規定≫
・代理人選任義務の例外(第5条(2)(b))
・グレースピリオド(第7条)
・非公表の維持(第10条(1))
・優先権の回復(第16条(2))
・実施権記録の不要化(第19条(2))
⒋ 日本が主導した「7つの修正案」
日本は参加国の中で最多となる7つの修正案を提案し、そのすべてを採択させることに成功しました。
⑴ グレースピリオド12か月:
米国と共に12か月への統一を提案。中国が求めた「対象の限定列挙」を退け、柔軟な規定を維持しました。
⑵ 秘密意匠制度の起算点:
「出願日起算」を主張し、国際的な実務上の不利益を解消しました。
⑶ 不服審査手続の対象外化:
日本の行政手続制度との整合性を確保。
⑷ 関連意匠の一括申請:
日本独自の制度が条約下でも制限されないよう明確化。
⑸ 優先権証明の提出期限:
修正手続時の期限を明確化。
⑹ 手数料納付の記載:
庁側が出願人に納付方法の記載を求めることを許容。
⑺ 実体審査後の優先権修正除外:
審査終了後の修正による現場の混乱を防止。
⒌ 日本の意匠法はどう変わるのか(今後の課題)
日本が本条約を批准するためには、主に以下の国内法改正が必要になると分析されています。
⑴:代理人選任の例外(第5条)
意匠に関する出願日を確保するための手続や料金の支払いについて、在外者が国内代理人を介さずに特許庁に対して直接手続することは認められていません。他方、リヤド意匠条約では、出願日を確保するための手続や、単なる料金の支払いについては、在外者であっても国内代理人を介さずに官庁に対する手続を行うことが可能とされていますので、それに見合った国内法の愛誠が必要になります。
⑵:出願日認定要件(第6条)
出願日認定要件の規定及び要件を満たさない場合の措置に関する規定は、特許法や商標法とは異なり、意匠法においては定められていません。リヤド意匠法条約第6条では出願日認定要件に含まれる情報が提出書類に含まれる場合は、その提出日を出願日と認定。出願日認定できない場合は、出願人に通知して補完を求める機会が与えられることになっていますので、それに対応した国内法の改正が必要になります。
⑶:グレースピリオド(第7条)
意匠法第4条において、1年のグレースピリオドを認めている一方、優先権主張を伴う場合も出願日を起算日としており、優先日については考慮されていません。リヤド意匠法条約では出願日(優先権主張を伴う場合は優先日)に先立つ12か月の期間に意匠が開示された場合、新規性、独創性などを毀損しないとされていますので、日本は意匠法第4条に「優先権主張を伴う場合の起算点の読み替え」の規定を設ける必要があります。
⑷:優先権の訂正・追加を認める規定の新設
意匠法には優先権の訂正追加を認める規定がありません。リヤド意匠法条約第16条であっ条約・規則で定める要件が満たされる場合は、優先権の訂正や追加が可能とされてます。この規定を導入するためには、意匠法に「優先権主張の補正」に関する新条文を追加する必要があります。
⒍ おわりに
リヤド意匠法条約(RDLT)は、今後、世界の意匠保護における「ゴールドスタンダード」となります。
日本が加盟する際、どの条項を「留保」するのか、あるいはフルスペックで受け入れるのかが焦点となります。
また、他国の留保状況を把握することも、今後のグローバルな知財戦略において極めて重要になってくると思われます。





