商標の「不使用取消審判」における判断(最近の裁判例:令和8年6月29日判決)
2026-07-07
1:初めに(判決が示した「2段階の論理」と今後の実務への影響)
商標法には、長期間使用されていない登録商標を整理するための「不使用取消審判」という制度があります。このたび、登録商標「たべるん」をめぐる訴訟において、知的財産高等裁判所は、ウェブサイト上のキャラクター名称の表示が「商標の使用」に当たるか否かについて、判決を下しました。
【事案】
令和8年6月29日判決言渡
令和8年(行ケ)第10009号 審決取消請求事件
取消2024-300908(審判番号)
以下では、特許庁の審決から裁判所の判決への論理の発展、そして本判決が持つ「2段階の論理構成」とその射程(影響範囲)について解説します。
2:審決から判決へ:事実認定から法理の構築へ
本件の争点は、ウェブサイト上の「案内役キャラクターの名称」が、商標法上の「登録商標の使用」といえるか否かでした。
⑴ 特許庁「審決」の視点(広告としての事実認定)
特許庁は、キャラクター名としての表示であっても、それがプライベートブランド商品のQ&Aや理念を説明する「広告」という文脈に配置されている点に着目しました。その上で、当該表示は「役務に関する広告」としての機能を果たしており、文脈上、「出所識別機能(商標としての機能)も有している」として、商標的使用の要件を満たすと評価しました。
⑵ 知財高裁「判決」の視点(2段階の論理による補強)裁判所は特許庁の事実認定を支持した上で、さらに一歩進んだ法解釈を示しました。
広告活動としての認定を維持しつつ、さらに「そもそも商標的使用(出所識別機能)の有無を厳格に問う必要はない」という法理を打ち出しました。
これにより、審決の結論をより盤石なものとして補強しました。
3:判決が示した「2段階の論理」
特許庁審決の認定した事項に加え、この判決では更に商標的使用は不要である点も判示し、2段階の論理構造を採っています。
⑴ 第1段階:広告的使用としての事実認定
裁判所は、ウェブサイト内のキャラクター名表示を詳細に検討しました。これが、プライベートブランドのコンセプトやQ&Aを紹介する「小売業務の広告」という文脈に置かれている点に着目し、商標法第2条第3項第8号の「役務に関する広告を内容とする情報への標章の付与」に直接該当し、具体的な広告活動の一環として「使用」されていると認定しました。
⑵ 第2段階:商標的使用(出所識別機能)の不要論
さらに裁判所は、裁判所は、50条の文言のとおり、当該登録商標が、請求に係る指定商品又は指定役務について何らかの態様で使用されていれば足り、需要者において何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識し得る態様により使用されていることまで要しないと解するのが相当であるとし、「商標的使用の有無を問わず、使用に該当する」という広範な判断を示しました。
4:商標的使用が不要とされる理論的な根拠
裁判所が商標的使用の厳格な要件を不要とした理由は、主に3点あります。
第1に、商標法50条の文言には、商標権の侵害判断に用いられるような「商標的使用(自他商品識別機能)」という限定が付されていません。裁判所は、明文の根拠なく同条にまで厳格な機能性を読み込むことは法解釈として妥当ではないと判断しました。
第2に、制度の本質が空権化した商標権の個別整理と産業発展にある以上、厳しいハードルを設けて登録になった商標を抹消すべきではないという公益的観点です。
第3に、他人の権利を制限する「権利行使」と、商標権者の活動を保護する「権利維持」の場では、求められる「使用」の厳格さが異なるという点です。つまり、権利維持の手続きにおいては、消費者の高度な識別機能まで求めず、経済活動の実態があるなら広く「使用」を認めることが適当であるとの合理的な判断がなされました。
5:まとめ
本判決は、商標法50条の「使用」要件を侵害訴訟における判断基準から切り離し、「商標権者が現にその業務のために商標を維持しているか」という実態判断へと回帰させた点に大きな意義があります。
侵害訴訟では「他人の権利を不当に制限しないため」に、需要者が自他識別できる「商標的使用」を厳格に求めますが、権利を維持するための行政手続きである不使用取消審判では、そこまでの高度な機能は不要であると整理されました。
つまり、指定された役務との関連性を示す「何らかの態様での表示」が認められれば、消費者が「これは商標だ」と意識する以前に、法的には「使用実績あり」とみなされることになります。
これにより、企業はウェブサイトやSNS上での情報発信が「商標として正しく機能しているか」という主観的な不安から解放され、実態ある業務活動を積み重ねることが、商標登録を守る最も強固な防衛策であるという指針が明確になりました。
ただし、商標権者が広く使用を認められるとはいえ、あくまで「指定商品・指定役務との関連性」があることが大前提となります。
したがって、その使用が自社の業務と無関係な私的利用と見なされないよう、当該表示が自社の商品・サービスをPRする文脈にあることを客観的に紐づけておく準備が、今後ますます重要となります。
なお、個別の事案における「指定商品・役務との関連性」の判断や、防御のための戦略的な証拠収集には高度な専門的知見が求められるため、詳細については専門の弁理士にご相談されることを強くお勧めいたします。





