飯島国際商標特許事務所
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【海外一般】中国『クレヨンしんちゃん事件』の背景にあるもの

2026-07-10

1:初めに
世界各国に進出する日本企業の中で、特に世界の工場から世界の市場へと移行しつつある中国へ進出する企業が年々増加しています。
しかし、中国で出願され、登録されている商標には、日本や他国の商標をそのまま模倣して、全く関係のない第三者が商標登録しているものも多数含まれていることは、新聞やテレビの報道で伝えられているとおりです。
国際商標実務の場面においても、不正登録されるというトラブルが発生しており、この不正登録が中国進出にあたって大きな障壁になっており、国際商標実務に携わる私どもも困惑することが多々あります。この問題を象徴する具体的な事例が「クレヨンしんちゃん事件」です。これは発行元である双葉社と全く無関係の者が、中国で先に商標登録出願をし、商標権を取得したことから生じた紛争です。

2:クレヨンしんちゃん事件の事案と真の教訓
この事件で双葉社は、商標権ではなく国際条約(ベルヌ条約)に基づく「著作権」を武器に抗戦しました。「他人の先行する著作権を侵害する商標登録は認められない」という主張が中国の裁判所で認められ、不正な商標登録を次々と取り消すことに成功したのです。

双葉社の紛争解決策は結果として成功したものといえますが、ここから学ぶべき真の教訓は「中国でいち早く商標登録出願をし、商標権を取得しておけば、このような紛争はそもそも生じなかった」という点です。
ひとたび紛争が生ずると、勝訴までに約8年もの歳月が流れ、高額な紛争解決費用とビジネスチャンスの損失が発生します。「先手を打って登録を済ませておくこと」こそが、最大の防衛策なのです。

3:今後の動向と、実務上で注意すべき事項
こうした悪意ある不正登録(商標トロール行為)に対しては、中国側でも大きな法改正が行われ、2027年1月1日より「改正商標法」が施行されます。
今後は出願時に「使用の意思」や「適正な事業範囲」が厳格に求められ、転売目的の大量買い占めは入り口で拒絶されるようになります。「誠実原則(第9条)」の強化や周知商標の保護拡大も明文化され、悪意ある先取りリスク自体は大幅に減少していく見込みです。

4:注意点
しかし、この新法下だからこそ、日本企業が今後特に注意すべき事項が3点あります。
⑴:「異議申立期間」の短縮(3ヶ月→2ヶ月)へのスピード対応
商標が登録される前の異議申立期間が短縮されます。トロール業者を早期に排除できるメリットがある反面、自社ブランドが勝手に出願されているのを発見した場合、2ヶ月以内に証拠を揃えて申し立てる必要があり、これまで以上の迅速な模倣監視(ウォッチング)体制が必須となります。

⑵:防衛的囲い込みから「実際の使用」へのシフト
新法は「実際にビジネスで商標を使う者」を優遇します。そのため、「念のために使わないジャンルまで網羅的に登録してキープしておく」という従来の防衛策が難しくなります。「進出する事業範囲を明確にし、使用する意志を持って計画的に出願する」という実務への転換が必要です。

前回、「先願・登録主義」、「属地主義」という国際商標実務においてとても大切な考え方について紹介しましたが、「クレヨンしんちゃん事件」の背景、自然と今回の2027年の法改正を踏まえた今後の実務においても、「先願・登録主義」、「属地主義」という大切な視点が隠されていることをご理解いただきたいと思います。

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