近時の裁判例【令和8年6月18日判決言渡 令和7年(行ケ)第10121号】
2026-07-21
知的財産高等裁判所(令和8年6月18日判決)は、国際オリンピック委員会(IOC)が保有する商標「五輪」について、不使用取消審判を請求した原告側の訴えを退け、当該商標登録を維持する判決を下しました。
本件は、グローバルな組織が日本国内で商標権を安定的に保持できる根拠と、デジタルプラットフォーム上での商標使用の実態をどのように認定すべきかという重要な争点を含むものでした。
本件の争点は以下の通りです。
1:外国法人の権利能力: 日本法上の認許を受けていない外国法人であるIOCに、日本国内における商標権の権利能力が認められるか
2:商標の使用の有無: 公式サイト上の記事における「五輪」の掲載が、商標法上の「商標の使用(要証期間内の使用)」に該当するか。
【内容】
1:外国人の権利能力について
まず、原告らが主張した外国法人の権利能力については、国際条約に基づく判断が示されました。
日本とスイスがともに加盟するパリ条約第2条1項の「内国民待遇」を根拠に、外国法人であっても日本国内で商標権を享有する能力があると認定されました。
これにより、日本国内での個別の認許手続きの有無を問わず、国際的な権利主体の権利能力が明確に保護されることが確認されました。
2:2条3項7号の使用について
原告はウェブサイト上の記事で使用されている「五輪」は、単なるオリンピックの俗称(一般名詞)にすぎず、商標としての識別機能を果たすものではないと指摘しました。
加えて、該当するウェブサイトの運営・管理は別会社(オリンピックチャンネル社)によって行われているため、IOC自身による適法な使用実績とは認められないと主張しました。
これに対し被告(IOC)は、商標の使用実態については、ウェブサイトの記事内において「五輪」の文字がオリンピックシンボル(五輪マーク)と共に表示されており、これがスポーツ情報提供という指定役務における識別標識として機能している点を強調しました。
さらに、ウェブサイトの運営自体は外部業者に委託しているものの、実質的な公開者および権利の保有者はあくまで被告(IOC)自身であり、その管理・監督下で行われた表示は、商標法2条3項7号に定める商標権者の適法な使用に該当すると主張しました。
裁判所は、公式サイトの記事内において「五輪」の文字が五輪マーク(ロゴ)と共に表示され、スポーツ情報提供という指定役務の文脈で識別標識として機能している点(商標法2条3項7号に該当)を認定するとともに、サイトの運営・管理が外部業者(オリンピックチャンネル社)に委託されていたとしても、実質的な管理監督の下でIOCによって公開されたものである以上、商標権者本人による適法な使用実績として十分に認められると判示し、原告の主張を退けました。
【本判決の意義】
本判決は、パリ条約の「内国民待遇」を根拠に外国法人の商標権享有能力を認め、国際的な権利主体が日本国内で安定的に権利を維持できることを明確にしました。
さらに、外部委託によるウェブ運営であっても実質的な管理監督下にあれば商標権者本人の使用と認めるとともに、ロゴとの併用等による評価を通じて適正な使用実績を広く肯定した点に、デジタル時代の知財実務における大きな意義があるものと思われます。





