近時の裁判例:他社ブランドの大量出願・買い占めに「公序良俗違反(4条1項7号)」を適用し無効とした事例
2026-08-08
知的財産高等裁判所において、他人の商標を意図的に多数出願していた事案に関し、商標法4条1項7号(公序良俗違反)を適用して登録無効とした審決を維持する判決が言い渡されました。
1:事案の概要
本件は、原告が保有する登録商標「Alphacool」(指定商品はコンピュータ周辺機器の冷却用装置等)について、被告が商標登録無効審判を請求した事件です。
特許庁が本件商標について「商標法4条1項7号に該当する」として無効とする審決を下したため、原告がその取消しを求めて知財高裁に提訴しました。
2:争点
本件の最大の争点は、本件商標が商標法4条1項7号(公序良俗違反)に該当し、無効とされるべきかどうかです。
3:両者の主張
⑴ 原告の主張
・平成24年頃に「Alpha」と「Cool」の汎用性の高い語を組み合わせて独自に「Alphacool」という造語を創造し、使用を開始したと主張しました。
・周知性のない被告の引用商標に接する可能性はなく、模倣やフリーライド(ただ乗り)の目的で採択したものではないと反論しました。
・審決が原告の多数の出願経緯から悪性を推認しているのは不合理であり、大部分の出願は本件商標の出願後であるため遡って主観的意図を推認するのは論理の飛躍であると主張しました。
⑵ 被告の主張
・原告は数年の間に80件もの大量の登録出願を行っており、その多くが他人の使用する商標と同一・類似の造語で、他人の使用に遅れて出願されていると指摘しました。
・原告は本件商標の登録後、直ちに被告の日本販売代理店に対し「Alphacool」の表示が商標権侵害や刑事罰の対象になるとして警告・使用中止を要求している点を挙げました。
・本件商標は、剽窃的な大量出願の一環として、被告のブランドの信用等にフリーライドする不正目的で出願されたものであり、公序良俗に反すると主張しました
4:本判決の特殊性
⑴ 個別の類似性判断を超えた「出願人の属性・動向」の重視 本件が従来の商標紛争と大きく異なるのは、1対1の商標の成否や先使用権の有無といったミクロな検討だけに終始せず、出願人による「出願の全体像」を総合的に考慮して違法性を判断した点にあります。
⑵ 大量かつ網羅的な他社ブランド出願の認定
裁判所は、原告が数年間にわたって80件もの大量の登録出願を行っており、その多くが他人の使用する商標と同一・類似の造語であり、かつ他人の使用に遅れて出願されていたという客観的な出願パターンを重く見ました。さらに、指定商品と原告の本来の事業内容との間に一貫性や関連性が希薄である点も指摘されています。
⑶ 権利行使(警告書)と直結した悪意の認定 登録直後に日本の販売代理店に対して内容証明郵便で警告書を送り、商標権侵害や刑事罰をちらつかせて販売中止を迫った一連の攻撃的な行動が、単なる自ブランドの保護ではなく、「他人の商標の剽窃や信用へのフリーライド、使用妨害を目的とした悪質な出願スキーム」であったことを裏付ける決定的な事実として認定されました。
5:示唆と教訓
⑴ 出願履歴全体の証拠化
多数の出願を行う出願人に対しては、全体的な出願パターン(他人の周知・著名商標との類似頻度や事業関連性の有無等)が判断材料となるため、出願履歴全体の収集が剽窃的意図の立証に有効である場合がある点を明確化しました。
⑵ 行政手続書類の正確性
早期審査の事情説明書等の記載は後の紛争で証拠とされるため、使用開始時期等の事実関係は正確に記載する必要があります。
⑶ 4条1項7号の活用
外国企業等でも売上実績や紹介記事の蓄積により「一定程度知られている」要件を満たし得り、個別規定に比べ4条1項7号が無効主張の強力な手段になり得ることが示されました。
⑷ 権利行使前の出願経緯の検証
登録後の警告書等の権利行使も出願経緯の判断材料とされるため、権利行使の前に自社の出願経緯の不自然さや瑕疵がないか十分に検証しておくことが不可欠とまります。





