近時の裁判例:令和8年(行ケ)第10030号 審決取消請求事件:知的財産高等裁判所
2026-10-14
本記事では、OEM工場に渡したロゴ入り発注書が商標の「使用」に当たるかが争点となった、知的財産高等裁判所の近時の判決を紹介します。 不使用取消審判(商標法50条)への対策を考えるうえで、押さえておきたい判断です。
1:背景・経緯の詳細
権利者が保有する商標に対し、第三者から不使用取消審判(商標法50条)が請求された。権利者は要証期間内に「本件商標を付した発注書を製造委託先に交付した」として使用の実績(商標法2条3項8号)を主張した。
特許庁は、「製造委託先への発注書は市場で独立して流通する商品に関する取引書類とは言えず、また広告的機能を発揮していない」として、商標登録を取り消す審決をした。これを不服とした権利者が、特許庁審決の取消しを求めて知財高裁に提訴した。
2.:審理における詳細な争点
「商品の製造委託先(1社)に交付した発注書に商標を付す行為」が、商標法2条3項8号の定める「取引書類に標章を付して頒布」する行為に該当するか。⑴ 原告の主張
・取引書類性: 製造委託先への発注書も「取引書類」に含まれ、製造委託先との業務上の信用も保護されるべき。
・頒布性: 特定の1社宛てであっても、現に交付した以上は「頒布」に当たる。
・実体性: 実際に費用をかけ500個の製造・納品を完了させており、名目的使用ではない。
⑵ 被告の主張
・取引書類性: 一般需要者に向けられたものではなく、商標の広告的機能を発揮していない。
・頒布性: 単一の製造委託先に渡しただけでは「展示」や「頒布」とは言えない。
・実体性: 不使用取消しを免れるための形式的・名目的な使用にすぎない。
3:裁判所の見解
知財高裁は、権利者側の請求を棄却(敗訴)し、特許庁の取消審決を全面的に支持しました。
裁判所は以下の点を解釈し判断を示しました。
⑴「頒布」の法的な解釈・趣旨目的的解釈
① 趣旨解釈
商標法2条3項8号が、商品そのものへの貼付だけでなく「広告や取引書類への記載」を使用と認めている趣旨は、「商品が市場へ流通する前段階の広告等を通じて、商標に営業上の信用が蓄積・化体されること」および「他人がこれを模倣することで信用が害されること」を防ぐ点にある。
② 文言解釈
同号では「頒布」が「展示」と並記されていること、また一般的辞書的意義として「広くゆきわたるように分かち配ること」を意味することに照らせば、同号の「頒布」とは「標章を付した広告等を、公衆が閲覧可能な状態に置く程度に流通させること」と解するのが相当である。
⑵ 本件の具体的事実へのあてはめ
交付先は、自社商品の需要者(購入者・取引先)ではなく、単なる「製造委託先(1社)」にすぎない。需要者となり得ない1社に対して注文書を2回交付したにとどまる行為は、「公衆が閲覧可能な状態に置く程度に流通させた」とは評価できず、「頒布」には当たらない。
⑶実体性・費用投入に関する反論
権利者は「実際に費用を投じて500個製造させ、納品も受けているから名目的ではない」と主張した。しかし裁判所は、「どれほど実体的に費用をかけ商品を製造・納品させていたとしても、発注書の交付という行為自体が『頒布』に該当しない以上、法的な『使用』が証明されたことにはならない」として、この主張を退けた。
4:判決の意義
⑴ 不使用取消審判(商標法50条)の対策として、OEM先や製造工場などの委託先に提出する発注書や指示書に商標ロゴを載せるケースがありますが、これは法的な「商標の使用」としては認められません。
⑵ 商標法2条3項8号の「取引書類への付与・頒布」として使用を認めさせるためには、工場などの「作る側」ではなく、商品を買い取る事業者や一般消費者といった「買う側(需要者)」に対して、商標が閲覧できる状態(頒布)で届いていなければなりません。
⑶ 実際の製造コストがかかっていても発注書の交付という行為自体が『頒布』に該当しない以上、法的な『使用』が証明されたことにはならない」。という点には注意が必要です。





