NOTE

商標・意匠・知財に関するコラム

  • 2023-09-13

    韓国t来法院判決(新規性喪失の例外適用が求められた意匠権と公知意匠の抗弁)

    韓国で、新規性創出の例外適用が認めら意匠権に対し公知意匠の抗弁の提出が否定された判決が出た。
    今回はその考え方についてみてみることにしたいと思います。

    公知意匠の抗弁とは、意匠登録がなされた意匠登録出願前に実施されていた意匠と同一又は類似する意匠
    を実施していた場合には、登録意匠の権利範囲に属することはなく意匠権の効力は及ばないする法理をい
    うものであり、意匠法にかかる抗弁を認める規定は存しないが、我が国意匠権侵害訴訟でも認められと思
    われる事案がある(東京地方裁判所 平成5年(ワ)第17437号)。

    この法理は、出願前に実施をしている場合には登録意匠は新規性欠如の瑕疵があり無効審判の請求を認め
    られるが、無効審判を請求するまでもなく権利行使が及ばないとすることで、一回的解決手法に優れた見
    解ということが出来るが、平成13年改正で無効の抗弁(準特104条の3)が認めれられてからはその主張
    の意義が減少してしまったように感じる。

    ただし、公知意匠が新規性喪失の例外(意匠法4条2項)の適用を受けて登録になった場合は、新規性欠如
    の瑕疵はなく無効の抗弁(準特104条の3)の抗弁の提出は規定上できない。

    この場合、当該規定の適用を受けて意匠登録を受けた意匠権者が、その意匠登録出願前に公知になっている
    ことから、問題がないとして実施を行った第三者の実施行為に対して意匠権の侵害を問うことが出来るか(
    当該第三者の実施意匠は意匠登録権者の実施意匠であり、知得のルートも共通であることから先使用権(29
    条)の適用も認められない場合、十分に検討に値する価値がある。

    このような事例につき韓国では2023年2月23日判決言い渡しが出た事件(大法院2021フ10473事件)が
    あり今後の日本の実務の考え方にも影響が生じる可能性がある。

    ⑴ 原審の判断
    仮に新規性喪失の例外適用を認め、意匠登録を認められた意匠であっても、既に公知となった意匠は、公共
    の領域に置かれたデザインであり、被告はそれを信頼した以上、被告の自由意匠の抗弁の提出を制限するこ
    とは、公平性を欠くとして意匠権侵害を否定した。

    ⑵ 大法院の判断
    これに対し大法院では、第三者の保護の観点からみても、デザイン保護法が定める時期的・手続き的要件を遵
    守して新規性喪失の例外規定を受けて登録された以上、立法者の決断による第三者との利益均衡は成立したと
    いうことができる。
    また、新規性喪失の例外規定の適用根拠になった公知デザインに基づく自由実施デザイン主張を認めることは、
    デザイン保護法がデザイン権者と第三者との間の公平を図るために先使用による通常実施権等の制度を設けて
    いるにもかかわらず、公知デザインに対し特段の創作的寄与をしなかった第三者に法定通常実施権を超える無
    償の実施権限を付与することにより、第三者に対する保護を、法で定められた登録デザイン権者の権利より優
    先する結果になるという点でも、上記のような自由実施デザイン主張は認められることができないとし、意匠
    権侵害を肯定した。

    ⑶ まとめ
    仮に、このような場合、当該抗弁の提出を認めた場合には、自己が創作をした意匠を実施して初めて認められ
    る先使用権を超え、何ら創作に関与し得ない実施者に対しても無償の実施権原を認めることになり衡平を欠く
    ことになるという点から上記のような判断を行ったものと思われる。

  • 2023-08-30

    コンセント制度の問題点

     1 コンセント制度
           令和5年の改正により、コンセント制度が導入されますが、今回のコンセント制度は、商標権者が
        同意を与えた後、特許庁審査官が混同の虞がないとする場合には登録を認めるという留保が型コンセ
        ント制度を導入しました。
        以下、その旨の規定を記載した条文となるのですが、その内容については以下のような問題点が存し
        ます。なお、下記に記載しました論点の方向性は、2023年8月末に時点での審議会等での見解からの
        ものですので、今後の審議や議論により変更が生じ得るかもしれません。

     2 新設4条4項の内容

    4 第一項第十一号に該当する商標であつても、その商標登録出願人が、商標登録を受けることについて同号の他人の承諾を得ており、かつ、当該商標の使用をする商品又は役務と同号の他人の登録商標に係る商標権者、専用使用権者又は通常使用権者の業務に係る商品又は役務との間で混同を生ずるおそれがないものについては、同号の規定は、適用しない。

    3 新設4条4項の問題点
       ⑴ 他人の承諾の問題点
          ① 承諾の時期
                他人の承諾の時期は、商標法中には規定がされていませんが、他人の承諾は4条4項に該当するための
             要件ですので、行政処分に原則の通り、査定時に必要であるとすることが提唱されています。
          ② 他人の承諾は、引例たる先願先登録の商標権者の承諾のみで足りるか
                承諾権者は、他人とのみ規定がなされ、その主体が、引例たる商標権者と限定がなされていません。ま
             た、4条4項後半では、商標権者のみならず、使用権者の業務との混同も生じない場合に登録を認めるとし
             ていることから、他人には使用権者も含まれ、これらの者の承諾も必要になるようにも考えられることか
             ら問題となります。
         ➂ 庁の見解(2023年第31回審議会)
               これに対し、特許庁の見解としては商標権権の承諾のみを今の段階では求めているようです。ただし、商
             標権者の承諾の際に、承諾書に使用権者の承諾等の旨を求めることが考えられるとされいます。なおこの点
             については、他の委員からも、他人に使用権者も含めると、登録をしていない通常使用権者等も存すること
             になり、これらの承諾を求めると非常に大変となることから、商標権者の承諾のみを求めるものという主張
           (理由)がなされています。
         ➃ 承諾の内容
               その際の承諾に内容としては、⒜使用権者も承諾を認めているという事実だけなのか、⒝使用権者との関係
            でも混同が生じないと商標権者が承諾を行った承諾なのか議論が分かれるところですが、この点は今後更に審
            議がなされるとのことです。

       ⑵ 実際の使用がなされていないにもかかわらず、混同が生じ得るとみなして4条4項の適用を認めない(混同が生
          じる可能性があり登録を認めないとする商標)とする商標とはどのようなものを指すのか?
         ① 混同との関係
               実際の使用をしていない商用でも、混同が生じるおそれがあるとみなされる場合があるのか。
         ② 引例の先願先登録商標権者が同意を与えた場合でも、同一商標で、指定商品等が同一の場合には、仮に承諾が
             あったとしても、混同のそれがある商標として4条4項の適用は認めれられないと考えれるとしています。
         ③ 商標同一の場合とは
              ここで商標同一の場合や、指定商品等の同一を厳格に見ていくべきか否かについては議論があります。適用を緩
            くしてしまった場合には、新設したコンセントによって救済ができる場合が非常に限定的になったしまう可能性が
            あるからです。           
              ◆ 商標同一は厳格に解する


      ⑶ 混同が生ずるおそれがないと判断する時点
            混同が生ずるおそれがないとする判断時点は何時なのでしょうか。行政処分の原則からすると査定時ということに
          なりますが、査定後登録になるまでの間に混同が生ずるおそれが生じてしまうことになると、混同が生じ得る商標権
          が併存して存することになってしまいます。これは問題がありますので、判断時は「査定時及ぶ登録時」をもって判
          すべきと提言されています。
                ◆ 混同の判断時:査定時及ぶ登録時をもって判断する


       ⑷ 将来の混同のおそれも含むか
             なお、この混同のおそれは、①現在の混同のおそれと、②将来の混同のそれがあります。
             この場合の将来の混同のおそれは、何年先までのことを想定しているかは今後の議論の進展によるものとされてい
            ます。また、当事者は、「将来にわたって混同を生ずるおそれがないこと」を主張・立証するために、「将来」につ
            いて、どのような内容を記載した書面を提出する必要があるのか等も今後の課題とされています。

     

     ⑸ 混同とは広義の混同までも含めるのか。
           次に、混同には主体を取り違える狭義の混同の他に、当該主体ではないが、その主体と関連性があるものと誤認する
           広義の混同もある。4条4項の混同も需要者保護の点から広義の混同迄含めるというのが庁の見解である。
               ◆ 需要者保護の観点から、混同とは広義の混同迄も含まれる


       ⑹ 混同の判断方法
             混同の判断に際しては、4条1項15号と同様、具体的な事情を総合勘案 して、混同を生ずるおそれがないかどうかを
           判断すべきではないかとされています。

       ⑺ 4条4項と4条1項15号との関係
             4条4項を検討した結果、混同が生ずると判断された場合には、いきなり4条1項11号に該当して拒絶とされないで、
           何らかの通知が来るのか。あるいは、そのような通知が来た場合に、出願人側は出所混同が生じない旨の主張を行っ
          た場合、4条1項15号は見ないということなのかという点は今後の課題とされています。

         コンセント制度実務では、証明書面としてどのような書面が更に必要になるか等、多くの問題点があります。
            今後の産業構造審議会での審議で更にその点は議論されると思いますので、暫時お知らせ致します。

  • 2023-07-29

    4条1項8号の改正

    他人の肖像若しくは他人の氏名(商標の使用をする商品又は役務の分野において需要者の間に広く認識されている氏名に限る。)若しくは名称若しくは著名な雅号、芸名若しくは筆名若しくはこれらの著名な略称を含む商標(その他人の承諾を得ているものを除く。)又は他人の氏名を含む商標であって、政令で定める要件に該当しないもの

     

    1 商標法改正がなされた趣旨は
          商標法4条1項8号が改正されました。この改正は、最近の審査では本項の趣旨が人格権の保護にあることを強調し、
       自己の氏名を商標として取得する場合には、同一の氏名を有する者、全員の承諾が必要とされています。そのため、自
       己の氏名を商標権として取得することができませんでした。このように厳格な取扱がなされた場合、自己の氏名をブラ
       ンドとして取得を行う慣行があるファッション業界等からは要件の緩和を求める主張がなされていました。
         そこで、本条の趣旨(人格権の保護)という点を維持しながら、上記のような要請等も加味した商標権の改正がなさ
      れました。
          なお、改正法については今後の審議において審査基準の策定及び論点等は審議されます。

     2 改正の概要
    ⑴ 氏名については周知性を求める
          氏名について周知性を要件とした今改正では、承諾を要する者は、周知の氏名を有する者のみとなりますので、従来
       のように全員の承諾を有する必要はなくなります。
    ⑵ 周知性を求めた場合の問題点
         氏名については、周知性を要求することになりますので、周知性がない氏名については無関係な者からの出願(悪意商
      標出願)がなされる虞があります。この場合、3条1項柱書(使用意思)や4条1項7号の適用では全ての出願に対し対応が
     できないことから、「出願人の事情」(改正4条4項参照)を考慮して登録の可否が審査等されるように改正がされました。
    ⑶ 周知性と出願人側の事情との関係はどうなるか
         では、周知性と出願人側の事情との関係はどうなるのでしょうか。令和 5 年 3 月 10 日産業構造審議会知的財産分科会
      商標制度小委員会報告書(商標を活用したブランド戦略展開に向けた商標制度の見直しについて(以下「同報告という」)https://www.jpo.go.jp/resources/shingikai/sangyokouzou/shousai/shohyo_wg/document/31-shiryou/05.pd

    によると
    ◆ 他人の氏名が周知性を有する場合
          人格的利益の侵害の蓋然性が高いと考えられることから、出願人側の事情のいかんを問わず、出願が拒絶される。
    ◆ 他人の氏名に一定の周知性がない場合
          他人の氏名が一定の知名度を有しない場合は、出願人側の事情を考慮することで、他人の人格的利益が侵害されるような濫
       用的な出願は拒絶されるものと考えられています。
    ⑶ 出願人側の事情とは
         では、改正法4条4項で問われる出願人側の事情とはどのようなものが想定されるのでしょうか?「同報告」では、詳細は今
        後の議論によるとされていますがこの場合の出願人側の事情とは、
       ・出願人と商標に含まれる氏名との関連性(出願商標中に含まれる他人の氏名が、出願人の自己氏名、創業者や代表者の氏名、
          既に使用している店名である場合等)。
      ・出願人の目的・意図(他人への嫌がらせの目的の有無、先取りして商標を買い取らせる目的の有無等)が想定されています。
    ⑷ 氏名以外の場合
          なお、4条1条8号は「氏名」以外も含むが、今改正は氏名に関する限りの改正であって、それ以外は改正の対象とはされてい
        ません。「肖像」は、たまたま同一のものを取得したということはなく、「名称」については氏名との違いからその必要はない
        というのが理由です。

     2 需要者の間に広く認識されている氏名(今後の課題)
           上記のような改正法4条4項により、現在の問題点は解消し得ると考えられますが、今後、以下の点が更に議論がなされると
         思われます。
    ⑴ 商品又は役務の分野における需要者とは
          改正法4条4項では、指定商品又は指定役務の分野における需要者としているが、この需要者の範囲(指定商品又は役務に直
       接接っする需要者を指すか、ある程度幅を有した需要者を指すか等の点について、ある程度の幅を有して判断することになるか
       とは思われますがその判断の基準などが今後の審議がなされる事項とされています。※1、
        ※1 国際自由学園判決では
        人の名称等の略称が8号にいう「著名な略称」に該当するか否かを判断するについても,常に,問題とされた商標の指定商品
          又は指定役務の需要者のみを基準とすることは相当でなく,その略称が本人を指し示すものとして一般に受け入れられているか
          否かを基準として判断されるべきものということができる。【平成17年7月22日 最高裁判所第二小法廷 判決】
     ⑵ 広く認識(どの程度の周知性か) の範囲
           また、広く認識されている程度はどの程度とするかについても今後の審議過程で明確化されることになります。
        例えば、4条1項10号程度の周知性まで求めるか(4条1項10号は出所混同を防止する観点から、周知の範囲は出所混同が生じる
        か否かの範囲で判断されます。4条1項10号の周知性については、DCC事件(昭和57(行ケ)110 昭和58年6月16日東京高等裁判
        所判 決)では、「全国にわたる主要商圏の同種商品取扱業者の間に相当程度認識されているか、あるいは、狭くとも一県の単位
        にとど まらず、その隣接数県の相当範囲の地域にわたつて、少なくともその同種商品取扱業者の半ばに達する程度の層に認識さ
        れていることを要するものと解すべき」)とされています。
          商標権の発生を覆滅する以上はそれ相当の地域的範囲での周知性を要することになります。
           これに対し、趣旨を同じくすることから、4条1項8号の著名な略称と同様の範囲であると解する立場もあります。なお8号の
       著名性については学説上も様々な見解があるところで、今後の審議過程で色々と明らかにされていくものと思われます。

     

                                                                    コンセント制度の新設

    1 コンセント制度の問題点
           コンセント制度とは、他人の先行商標権が、登録を受けることができないとされた商標登録出願であっても先行者の承諾があれ
        ば登録を認めるという制度です。
           コンセント制度には、先行者の承諾があるだけで登録を認める完全コンセントと、承諾後に特許庁が出所混同の有無を考慮して
        登録の可否を判断する留保型コンセントがあります。今回の改正で我が国は留保型コンセント制度を採択しました。

    【新設:4条1項4号】

    4 第一項第十一号に該当する商標であつても、その商標登録出願人が、商標登録を受けることについて同号の他人の承諾を得て
        おり、かつ、当該商標の使用をする商品又は役務と同号の他人の登録商標に係る商標権者、専用使用権者又は通常使用権者の
        業務に係る商品又は役務との間で混同を生ずるおそれがないものについては、同号の規定は、適用しない。
     

    ◆8条1項、2項等も同様に改正がなされました

    2 完全コンセント制度(同意があれば足りるとしなかった理由)
          今回の改正で、先行者の同意があれば足りるとしなかったのは、商標法は商標権者の利益を保護するだけではまく、需要者
        の利益をも保護するものである(商標1条)ことから、同意書の提出のみでは足りず、その後審査官が出所混同が生じ得るか
        否かの判断 行うものとしています。

     3 出所混同が生じてしまった場合
           なお、上記の場合でも登録後に出所混同が生じた場合の措置としては、混同防止表示を請求する、又は不正使用取消審判に
         より制裁として当該商標権を取消すことにすることとし、登録後に生じ得る出所混同を担保する制度を新たに新設しています。
          同様の制度は類似関係の分離移転等を禁じた連合商標制度が廃止されたことから、事後的な出所混同が生じた場合の措置とし
          て今 回の規定と同様な規定(混同防止表示請求(24条の4)、制裁である不正使用取消審判(52条の2)がありますが、当
          該制度は登録 時に類似であることを前提とした制度であり、登録時点で類似関係がなく、その後に出所混同が生じた場合には
          適用をすることができません。
            そのため、今改正では24条の4に各号を設け、52条の2ではそれに沿った内容にするよう改正がされました。

    4 コンセント制度の今後の審議
         ただ、承諾時点、混同の有無の判断時、将来的に混同が生じる期間、混同の内容(狭義の混同のみならず広義の混同をも含む
        か否)等については今後の審議事項とされています。
         今後問題となり得る事項については次回掲載致します。

     

     

     

  • 2023-06-15

    【限定提供データの保護拡張(2条7項の定義の改正):令和5年:不正競争防止法の改正】

    限定提供データとは、業として特定の者に提供する情報として電磁的方法により相当程度蓄
    積され、及び管理されている技術上又は営業上の情報と定義されています(不競法2条7項
    )。
    限定提供データに関する規律は平成30年の不競法改正によって導入されましたが、「営業秘
    密」(同2条6項)として保護される情報と区別するため、「(秘密として管理されている
    ものを除く。)」との文言が設けられています。ただ、これらの定義の隙間の問題、すなわち、
    「秘密として管理され」かつ「公然と知られている」情報は、営業秘密としても、また限定提
    供データとしても保護されないという問題が生じていました。


    そこで、限定提供データの定義から、「秘密として管理されているものを除く。」という箇所を
    削除し、営業秘密との差異を明確化するために、「営業秘密を除くと」とされました。

    これにより、上記のような問題は解消され、限定提供データとして保護される範囲が拡充されまし
    た。

     

     

     

     

     

  • 2023-06-12

    【令和5年意匠法等の改正⑶】
    令和5年改正により裁定謄本に営業秘密が含まれる場合には、閲覧が制限できるようになり

    ます。
    1:現行法
    意匠法、特許法、実用新案法では裁定制度があります。
    裁定は以下の3つの場合が規定されています。
    ◆不実施の場合の通常実施権の設定の裁定(特許法第 83 条、実用新案法第 21 条)
    ◆利用関係の場合の通常実施権の設定の裁定(特許法第 92 条、実用新案法第 22 条
       意匠法第 33 条)
    ◆ 公共の利益のために特に必要な場合の通常実施権の設定の裁定(特許法第 93 条、
    実用新案法第 23 条)

    裁定請求をする場合には、裁定手続においては、特許発明等の実施事実・計画の立証
    及び反証のために、営業秘密を含む企業情報や技術情報が記載された書類の提出が必
    要となります。

    2:改正内容
    現行法では、裁定書類の閲覧を何人に対しても認めていますが、営業秘密が含まれている
    書類が閲覧の対象になった場合には、非公知性を失い、営業秘密の利益が損なわれる虞は
    あります。そのため、裁定請求を行わないという場合があり得ます。そこで、この点を改
    正し裁定関係書類のうち営業秘密が記載された書類は、閲覧等を制限できることとされま
    した。

  • 2023-06-10

    【令和5年改正意匠法】
    この回は意匠法の改正についてお話を致します。意匠物品等に外観に係る創作であり、容易に
    新規性が喪失しやすいものです。そのため、現行意匠法では新規性喪失の例外(意匠法4条)
    を設け、公開された日から1年以内に出願をし、出願と同時に新規性喪失の例外適用を受けた
    い旨を記載した書面を提出し、出願から原則30日以内に同規定の適用を受けることができるこ
    とを証明する書面(例外適用証明書)を、特許庁長官に提出しなければならない(同条第 3 項)
    とされてます。

     しかし、近年では、複数の EC サイトを利用した製品の販売や、複数の SNS を活用した製品
    PR が広く行われ、発売前の製品に関する断片的な情報を公開し閲覧者の興味を引くことを意図
    した広告手法も現れるなど、公開態様が多様化・複雑化しており、意匠の公開に関する情報の管
    理が困難となっています。また、中小企業等では、クラウドファンディングのように意匠を公開
    して投資を募ってから製品化を決定する手法や、外部の協力企業や消費者と協働して製品を完成
    させる製造委託や共同開発が行われており、開発過程における公開の機会も増えています。

    このため、出願後30日以内に、公開された意匠の全てを証明書面として提出することは非常に困
    難であり、意匠保護が十分にはかれないということが生じていました(令和 4 年 12 月 7 日産業
    構造審議会知的財産分科会意匠制度小委員会 資料参照)。
    そこで、令和5年改正によって、この証明書面の提出について法改正を行いました。

    2 改正内容
    【条文】
       前項(意匠4条2項)の規定の適用を受けようとする者は、その旨を記載した書面を意匠登録出願
    と同時に特許庁長官に提出し、かつ、意3条1項1号又は2号に該当するに至った意匠が4条2項の規定
    の適用を受けることができる意匠であることを証明する書面を意匠登録出願の日から30日以内に特
    許庁長官に提出しなければならない。ただし、同一又は類似の意匠について意3条1項1号又は2号に
    該当するに至る起因となった意匠登録を受ける権利を有する者の二以上の行為があったときは、その
    証明書の提出は、当該二以上の行為のうち、最先の日に行われたものの一の行為についてすれば足りる

    (意4条3項)

    【内容】
         以下の要件を満たした場合には、証明書面を個々的に提出しなくても新規性喪失の例外適用を受け
      ることができます。

    【要件】
       ① 意匠登録を受ける権利を有する者の行為に起因して公知となった意匠であること

       ② 法定期間内に提出した証明書により証明した意匠の公開時以後に公開された意匠である
          こと
         ◆ 証明書記載の公知意匠より、先に公知になった意匠は救済の対象外となりますので、留意をし
           て下さい。
       ③ 法定期間内に提出した証明書により証明した意匠と同一又は類似する意匠であること
         ◆ 証明書面と非類似の意匠については、別途証明書面を提出しなければなりません。

     

     

  • 2023-06-10

     【令和5年特許法等の改正の概要⑴】

    令和5年6月7日に「不正競争防止法等の一部を改正する法律案」が可決・成立しました。
    これにより、不正競争防止法を含め、商標等の産業財産権の改正も併せて改正がなされま
    したので、その概要について何回に分けて御説明致します。今回は不正競争防止法の改正
    における仮想空間内での模倣行為に対する行為に対しても、不正競争防止法上で差止等が
    できるようになった点についてです。

     

    不正競争防止法の改正⑴
    ⑴ メタバース内での模倣行為を防止できるようになります(不正競争防止法2条1項3号)
     ① 対応方法
             不正競争防止法2条1項3号に中に、「電気通信回線を通じて提供する行為」を追加
          しました。
       ② 規定内容
           【改正条文】
               この法律において「不正競争」とは、次に掲げるものをいう。
             三   他人の商品の形態(当該商品の機能を確保するために不可欠な形態を除く)を模
                倣した商品を譲渡し、貸し渡し、譲渡若しくは貸し渡しのために展示し、輸出し、
                輸入し、又は電気通信回線を通じて提供する行為(不2条1項3号)
       ③ 改正の趣旨
             態模倣商品の提供行為(同項第 3 号)については、対象が「商品の形態」と規定され、
          従来から有体物の商品に限定した規定と解されていたことから、ネットワーク上の「譲渡」
          、「引き渡し」行為は想定できないとして、改正が見送られてきた。
          しかし、昨今のフィジカル/デジタルを交錯するような模倣事例が現れたことから、ネット
          ワーク上の形態模倣商品提供行為も適用対象であることを明確化することから、周知商品混
          同惹起行為‘(2条1項1号)、著名表示冒用行為(2条1項2号)と同様に、「電気通信回線を
          通じて提供する行為」を追加し、そのような模倣行為に対しても差止(不正競争防止法3条)
          、損害賠償(不正競争防止法4条)ができるようになりました。
       ④ 問題点
             なお、審議会答申の最終案を見ると、この改正に際しては、以下のような点が議論された
          が、法改正ではなく、運用や解釈の明確化によって対応できるとされ、法の改正には至りま
          せんでした。
         

          ◆ 商品形態の「商品」の中には無体物が含まれるか
                商品については、定義規定は設けていません。仮に商品の中に「無体物が含まれない」
             とした場合には、仮想空間内の模倣行為に対し、差止等を行うことはできません。
                商品に「無体物」が含まれるか否かについては見解が分かれています。
             このため、不正競争防止法の定義中(不正競争防止法2条2項以下)に商品の定義を設け
             ることも考えられましたが、商標等の他法でも、「商品」について定義規定を設けてい
             る法制がありません。
               また、今後の展開も踏まえて商品概念を見る必要性もあることから、逐条解説の中に、
             商品には「無体物」が含まれることを明記するにとどめることとしました。
          ◆ 商品形態模倣行為の保護期間の伸長について
                商品形態模倣行為に対する保護期間は、国内販売の日から3年間とされています(不正
             競争防止法19条第 1 項第 5 号イ)。
                この期間については、ファッション業界を初め保護の伸長を求める主張がなされていま
              した。
                そのため、今回の改正において保護期間の伸長を期すか否かが議論されました。この点
              については販売の日から3年の保護期間の起算日である「販売の日から」については、投
              資回収の期間を確保するという趣旨に鑑みれば、市場での投資回収活動が外見的に明らか
              になる時点を捉えて、商品の形態の模倣を禁止する期間の起算点とすることが適切である
              とされている(不正競争防止法逐条解説令和元年版235頁)。
                 このように解した場合には、公表から実販売の日までの期間が1年程度かかる場合があ
              ることから、投資開発の機会が十分に担保出来ないということがあります。
                 この点に関しては、条文改正ではなく、不正競争防止法逐条解説に解説部分を「実際の
              販売開始時」から3年と明記し、保護の伸長をはかるとともに、今後の動向を踏まえて更
              なる議論を踏むこととされました。

                この点は、解釈により保護期間が伸長されることになりますので、注意をすることが必
             要です。

     

  • 2023-05-29

    改正著作権法が令和5年5月26日に公布されました。

    改正著作権法の内容は以下の通りです。

    1:著作権法で新たな裁定制度(「未管理公表著作物等」)(67条の3)ができた経緯
       ⑴ 既存法の問題点
             著作権者等が不明であったり、著作権者等の許諾可否に関する意思が確認できなかったりする著作物多くあり、こ
           れらを利用する場合にも、著作権者の承諾を得ることが必要です。しかし、著作権者が不明の場合は承諾を得ること
           ができません。
             この場合、既存法では文化庁長官に対して裁定(著67条等)がありますが、裁定を求める要件が厳しく、処分まで
           一定期間を要していました。
             なお、裁定処分までの間でも、裁定申請と同一の方法により著作物の利用ができる旨の規定があります(著67条の
           2)が、上記のような場合、当該裁定を認めることができるか不明確です。
        ⑵ 新たな裁定制度の導入
              そこで、上記のような場合に対応すべく、著作物を利用できるような新たな裁定制度(新67条の3(新設))を設
            けることとされました。新たな裁定の制度は、要件が緩和されています。(①裁定を求める際の理由が著作権者不明
            の場合等と限定されていない、②補償金を供託する必要がありますが、「指定補償金管理機関」が補償金管理業務を
           行っている場合には、指定補償金管理機関に支払えば足り、供託の手続をとる必要はありません(第104条の21第2項
            )。なお ②の要件は著作権者不明等の裁定(67条等)でも採用されます)。
              なお、本裁定は従前にある裁定制度とは異なり、最大裁定から3年間利用を認めるというものにすぎません(新67
           条の3第5項)。
              そこで、長期間の利用を欲する場合には、従来の裁定制度(67条等)を求めるか、再度、本裁定(新67条の3)を
           求める必要があります。
            ◆ 本事項のみは、各機関などとの調整が必要であることから、公布から3年以内に施行がされます。

    2:立法・行政の目的のための内部資料としての著作物の公衆送信等
        ⑴ 現行法の問題点
               立法・行政目的のための内部資料として著作物を利用する場合には、複製ができるとされ、公衆送信は規定されてい
            ません。これは、現行法では立法・行政における第三者の著作物等の利用について、紙媒体によるものが念頭に置かれ
             ているからです。
        ⑵ 公衆送信権の規定の導入
               しかし、社会の変動に伴い、紙媒体等に複製せず、公衆送信をする場合が多くみられます。
            このため、立法・行政目的で利用する場合には、公衆送信ができる旨を規定することにしました(新42条)。
             ◆ この改正事項は、令和6月1月1日に施行されます。

     3:損害賠償額の算定基準の変更
        ⑴ 現行法の問題点
              産業財産権法では、令和元年の特許法102条1項・4項等の改正により、損害賠償額の算定基準が変わり、侵害に対し
            て妥当な損害額が認定できるようになっています。
              これに対し、著作権法では、産業財産権法のような改正がなされていませんでした。
         ⑵ 妥当な額が認定できるような改正
               しかし、近年の海賊版サイト等による著作権侵害の被害の増加に対し、さらなる実効的な対策の必要性が高まっていま
            す。 
               そこで、著作権も産業財産権と同様の改正がなされます。
            ◆ この規定は、令和6年1月1日に施行がなされます。

              参考:文部科学省ホームページ
              著作権法の一部を改正する法律案(概要) (mext.go.jp)

  • 2023-05-09

    意匠の存続期間の最後は、アメリカ州です。米国州は起算日が登録からあるもの、出願からあるもの

    様々です。また延長の機会も様々となります、下記をご参照下さい。

     

    【北米】

    アメリカ            出願から15年       10年延長 

    エルサルバドル         出願から10年        延長なし

    カナダ             登録から15年        延長なし

    キューバ共和国         出願から5年        5年延長

    グアテマラ           出願から10年        5年延長

    コスタリカ共和国        登録から10年        延長なし

    ジャマイカ           登録から15年        延長なし

    ドミニカ共和国         出願から5年        5年2回延長

     

    【中米】

    トリニダード・トバゴ共和国   出願から5年        5年2回延長 

    ニカラグア共和国        出願から5年        5年2回延長   

    ハイチ共和国          出願から5年        5年2回延長  

    パナマ共和国          出願から10年        5年延長

    バハマ諸島           出願から5年        5年2回延長

    ベリーズ            出願から5年        5年2回延長

    ホンジュラス共和国       出願から5年        5年2回延長

    メキシコ合衆国         出願から25年       延長なし

     

    【南米】

    アルゼンチン共和国       出願から5年        5年2回延長

    ウルグアイ           出願から10年        5年延長

    エクアドル共和国        出願から10年        延長なし

    コロンビア共和国        出願から10年        延長なし

    スリナム共和国         不明

    チリ共和国           出願から10年        延長なし

    パラグアイ共和国        出願から5年        5年2回延長

    ブラジル連邦共和国       出願から10年        5年3回延長

    ベネズエラ共和国        出願から10年        延長なし

    ペルー共和国          出願から10年       延長なし

    ボリビア共和国         出願から10年       延長なし

  • 2023-04-22

    アイスランド共和国    出願から5年        5年4回延長

    アイルランド       出願から5年        5年4回延長

    アルバニア共和国     出願から5年        5年4回延長

    アルメニア共和国     出願から5年        5年4回延長

    イギリス         出願から5年        5年4回延長

    イタリア共和国      出願から5年        5年4回延長

    エストニア共和国     出願から5年        5年4回延長

    オーストリア共和国    出願から5年        5年4回延長

    カザフスタン       出願から15年        5年延長

    オランダ王国       出願から5年        5年4回延長

    キプロス共和国      出願から5年        5年4回延長

    ギリシャ共和国      出願から5年        5年4回延長

    キルギス         出願から10年        5年延長

    ジョージア        出願から5年        5年4回延長

    クロアチア        出願から5年        5年4回延長

    サンマリノ        出願から5年        5年4回延長

    スイス連邦        出願から5年        5年4回延長

    スウェーデン王国     出願から5年        5年4回延長

    スペイン         出願から5年        5年4回延長

    スロベニア        出願から5年        5年4回延長

    セルビア         出願から5年        5年4回延長

    チエコ共和国       出願から5年        5年4回延長

    デンマーク王国      出願から5年        5年4回延長

    ドイツ連邦共和国     出願から5年        5年4回延長

    トルコ共和国       出願から5年        5年4回延長

    ノルウェー王国      出願から5年        5年4回延長

    ハンガリー共和国     出願から5年        5年4回延長

    フィンランド共和国    出願から5年        5年2回延長

    フランス共和国      出願から5年        5年4回延長

    ブルガリア共和国     出願から10年        5年3回延長

    ベラルーシ共和国     出願から10年        5年延長

    ベルギー王国       出願から5年        5年4回延長

    ポーランド共和国     出願から5年        5年4回延長

    ポルトガル共和国     出願から5年        5年4回延長

    マケドニア        出願から5年        5年4回延長

    マルタ共和国       出願から5年        5年4回延長

    モナコ公国        出願から10年        10年4回延長

    モルドバ共和国      出願から5年        5年4回延長

    モンテネグロ       出願から25年      

    リヒテンシュタイン公国  出願から5年        5年4回延長

    ルーマニア        出願から10年        5年3回延長

    ルクセンブルク大公国   出願から5年         5年4回延長

    ロシア連邦        出願から15年        10年延長

     

1件~10件(全91件)